【本】熱狂、恐慌、崩壊

熱狂、恐慌、崩壊―金融恐慌の歴史
Manias, panics and Crashes: A History of Financial Crises
Charles P. Kindleberger(1910-2003), 日経 2004/6

MITの教授の遺著。初版は1980年ですが、2004年に近年の事例を追加して4版が出版されました。
もし、金融機関にお勤めの方なら、p.322 をごらんください。過去の恐慌の際のマスコミの見出しが一覧になっています。

1772(英) 「通貨を襲ったもっとも厳しい嵐の一つ」
1825(英) 「未曾有の規模の恐慌が人々を襲った」
1837(米) 「この国がこれまでに経験したうちで最も悲惨な恐慌のひとつ」
1847(英) 「最近9カ月間に行なわれた投機は、現代の人々の記憶にないような無謀
かつ危険の多いものであった」
1847(英) 「ナポレオンの没落以後、シティがこれほど大きな興奮状態に陥ったこと
はなかった、と言っても間違いなかろう」
1857(英) 「1857年の危機は、イギリスであれ他の国であれ、かつて遭遇したこ
とのないほどに深刻であった」
1857(独) 「ハンブルクでは、これほど完壁かつ典型的な恐慌はかつて見られな
かった」
1857年(独) 「空前の激しさをもった」恐慌
1866(英) 「1866年の危機は、近代においてもつとも激しいものであった」
1866(英) 「1825年以後のどれよりも激しかった」
1873(独) 「過去五六年間に、これほど長引いた危機はなかった」
1882(仏) 「これに匹敵するほどの破局に遭遇したことがない」
1929(米) 「まさに南海バブル以来の、近代における投機ブームと破綻の最大の循環

数百年前から、定期的に繰り返されていますね。いまは「100年に一度」と騒いでいますが、何が100年ぶりなのか、冷静に見極める必要がありそうですね。
題名にも示されているとおり、金融危機には、投機、通貨膨張、詐欺、行き詰まりの段階があります。それぞれ1章をあてて、各国の歴史を解説しています。どこの国も同じように間違いを起こしており、人間の煩悩はやっかいなものだと思いました。
第5章 詐欺の登場 では、過去の詐欺の例が列挙されていますp.129。その中には、こんな例も。

1998年1月、大蔵省検査間が銀行検査の日程を事前に漏らしたという不祥事が発覚。検査官2人が逮捕され、その上司の大月洋一金融管理官が自殺した。3月には、接待の見返りに金融政策にかんする情報を漏らしたとして日本銀行の課長が逮捕され、その責任をとって日本銀行総裁が辞任した。

投機が進むと、ユーフォリア(陶酔感)も広がるんですね。
第7~8章では、金融危機の伝染を取り上げており、日本の金融危機も分析されています。ホーマー・ホイトの研究(『シカゴにおける百年間の土地価格』)を参照し、株価の暴落が、不動産不動産市況にも影響を与える様子を描かれています。投機に走る本人以上に傷つくのが銀行という主張は、日本にどんぴしゃ当てはまりました。
著者は、最後に新しい国際金融構造の必要性に触れています。金融恐慌に対応するためには、最後の貸し手が必要なのですが、責任を取る人がいなければ、成立しません。世界政府はない。アメリカの覇権は弱まっている。日本、ドイツが取って代わるでもない。EUはまだ力不足…。
ダチョウ倶楽部ではないですが、サルコジ大統領が「私やります」、ブラウン首相が「私がやります」と言った後に、日本が「10兆円出します」というと「どうぞどうぞ」と言われかねないですね。
改めて政治力が問われそうです。

では。