ヘンリー・カウフマン 2001 東洋経済
昨年末に、週刊東洋経済(2007/12/29) p.68に掲載された、カウフマン氏のコメントを紹介しました。
金融機関がコングロマリット化したのに、中央銀行の規制は昔のまま。金融機関が関与する領域の広さ、深さ、規模は大きく変わった
昨年末の時点で、金融市場の問題を的確に捉えていたのは、さすがです。今回の世界金融恐慌に接し、同氏の著書を読んでみました。
松藤さんが指摘するとおり、われわれは、大恐慌以来経験したことのない状況におかれているのですから、大恐慌を知っている年代の方のコメントに耳を傾ける時期です。カウフマン氏は、1927年生まれ。大恐慌時は2歳ですが、キャリアをはじめた1940年代のことを書いており、参考になりました。
第13章では、カウフマン氏が、半世紀にわたって体験した金融危機について書かれています。1929年以降も、アメリカは何度も金融危機に襲われているのがよくわかります。今回の危機を安易に「大恐慌以来」と安易に言っている人のことは、信頼できないかもしれません。
第14章では、特に80~90年代の過剰流動性について触れています。94年のメキシコ、97年のアジア、98年のロシア、ブラジル、LTCM。すべては、過剰流動性によるものであり、大混乱は、自由市場で発生しています。かつ投資家が本来守るべき義務を怠ったゆえに発生しています。
これらの危機を通じて、金融慣行の弱点を指摘しています。
・リスクの定量モデル化の能力が限られているのに、それに頼って株や債券を買ったこと
・洗い値として平時には、安定しているものが、危機になると、まったく頼りにならないこと
第15章では、金融市場におけるバイアスが、変動性を加速することになったと指摘しています。行き過ぎた楽観主義をいさめるコメントはこちら。
1999年8月までの5年間にダウ平均は196%の累積上昇率を記録し、それ以前の5年間(1989年8月~94年8月まで)の累積上昇率73%を上回った。歴史上、5年間でこれ以上高い上昇率は1度だけである。1924~28年の大強気相場で、この時ダウ平均は驚異的な214%にも上昇した。p.381
「投資家行動を左右するバイアス」p.382では、重要なパラドックスが指摘されています。それは、現在の投資家は、リスクを避けるがゆえに、市場のボラティリティが増すということです。現在の金融市場が、機関化され、証券化されました。結果、予期せぬ出来事から自分たちの組織を遠ざけ、組織の生き残りを考えるようになりました。逆張りをする人が減ると、より多くの人がインデックスに同調することになり、ボラティリティが加速的に大きくなってしまいます。
証券化のリスクについても、厳しく指摘しています。
残念ながら、多くの証券化資産は市況が悪化しているときは非常に非流動的であることが証明されている。そうした条件化では値洗いはできず、したがって、リスク嫌いの投資家にとって厳密な業績評価基準で運用することは不可能になる。p.383
- 米国は、金融保守主義と金融起業家精神の間に適切なバランスが維持されていない
- バランスシートに載っていない事項は載っているものと同じように重要である
- 政策立案者たちは行動バイアスを考慮に入れる必要がある
人々が合理的な行動をとると考えてはいけない。
FRBは金融政策を作成する際に資産価格の上昇をどの程度まで考慮に入れるべきなのだろうか。この難問には政治的側面がある。つまり、財・サービスの価格上昇は平均的な個人や家庭にとって実質的な面では損害を与えるが、資産価格の上昇は非常に人気があるという単純な事実である。p.400 - 金融に携わる人々は特別な責任を委ねられている。
などなど、耳の痛い教訓が17述べられています。
世の中には、あまたの情報があふれていますが、本質を見抜く人は、いつも一握りですね。
では。