日の名残り
カズオ イシグロ ハヤカワepi文庫 2001/5
原題は、The Remains of the Day (1989) 小説の魅力を再発見する本でした。当時のイギリスの空気が行間から伝わってきます。これは論文では伝えにくいことですね。イギリス紳士の特徴と箇条書きにされても、わかったかどうかわかりませんが、本書を読むと、そうなんだと腑に落ちます。
時間軸の使い方の鮮やかさも印象に残りました。日本人のように「円」として時間ではなく、「線」としての時間を感じました。時制がハッキリ意識されるのが英文学なんでしょう。
執事の文化というのも、私に縁遠いものでした。
執事はイギリスにしかおらず、ほかの国にいるのは、名称はどうあれ単なる召使だ p.61
英国文化を象徴するひとつが、執事なのですね。そこを掬い取る作者の技量。
英国人にとって、ホテルはこういうお屋敷文化の延長線上にできたものなのでしょうね。シンガポールのラッフルズホテル、ヤンゴンのストランドホテルにその残り香を感じます。
同じ設定で日本が描けるなとも思いました。バブル崩壊後の20年を描く小説家が現れたらどんな設定にするでしょうね。
では。