【本】東芝解体

東芝解体 電機メーカーが消える日
大西康之 講談社現代新書 2017/5

元日経編集委員の日本の電機産業論。著者は、電力会社やNTTの下請けだったがゆえに、隆盛し、衰退したと分析しています。

隆盛したのは、電気・電話料金は、「税金」であり、その投資の恩恵にファミリー企業は助けられました。そうして稼いだ資金を様々な事業に投じていきました。この制度が弱まるに連れて、電機産業は衰退したという見立てです。

電力ファミリーが三菱重工、電電ファミリーがNEC富士通。双方に重なるのが東芝、日立でした。
このファミリーに国も関与し「甘えの構造」p.74 があったと指摘しています。
この見立てだと、ソニー、パナソニック、シャープが独立系になります。独立系も、無傷ではないですね。ソニーについては、出井時代の光についても、評価しています。

  • 映画事業と立て直した
  • 液晶テレビ事業で、自前のパネル工場を造らなかった
  • インターネットの対応を急いだ
  • EMSを推進した
  • 執行役員制度を導入

出井さんの問題は、p.164

それは描いたプランを完遂できない実行力の弱さだろう。背景には「ソニー初のサラリーマン社長」という出井が置かれた立場の難しさがある。

逆に、業態転換した例として、テレビから電動歯ブラシにシフトしたフィリップスを取り上げています。医療がわかる人材を大量登用した同社のコメント。

取材陣に「フィリップスの目玉は何か」と聞かれたフィリップスエレクトロニクス ジャパンのダニー・リスバーグ社長は流暢な日本語で「社員」ですと即答した。p.181

絶対核家族な会社は、トップという権威に対して遠慮がありません。転換に躊躇がないですね。ここは学びたいところです。

松下は、人事抗争(私の変換では「構想」と最初出ましたが、ホントは「人事構想」が大事ですよね)を描いています。歴史を感じるのはこちら。

シーグラムに売却された後のMCAが社名を変更し、日本に建設したテーマパークが、あの「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」である。p.193

もはや「水道哲学」は通用しないp.201 と批判的。私は、この哲学は、モノという意味では、地球上の大部分で通用するし、日本では「ネット」を水道のように使うようにするのが新たなミッションだったのではないかと思いました。

三洋電機については、好意的ですね。p.202 直系家族な企業での女性経営者(野中ともよ氏)は、貴重な例ですね。

というわけで、電機産業の中でもっとも利益を出しているのは三菱電機p.236

 世界の企業が巨額の開発・設備投資を競い合うレッドオーシャンとなった携帯電話や半導体のようなデジタル分野から逃げ出し、ブルーオーシャンのファクトリーオートメーションや昇降機に経営資源を集中させた。p.238

MBA的にはアタリマエですが、こうして並べてみると、原則に忠実だった三菱が光って見えます。

<たゆまざる 歩みおそろし かたつむり>

2006年4月に社長に就任した下村節宏は、長崎の平和祈念像で知られる彫刻家・北村西望の句を引用し「地道な努力を重ねることの大切さ」を説いた。p.243

読み終えて、私の言う「直系家族の罠」にはまる例だと思いました。上意下達の会社はトレンドが出ている時には、非常に強いが、踊り場でに入り、トップが次のトレンドを読めないと、途端に苦境に陥ります。平均年齢が35歳を超えてくると、組織的にも動きが鈍くなりますね。かつ平均寿命が長くなり、社長が65歳で引退しても、15年も生きるというのも、背景としてあるのではないでしょうか。

サムスンも、鴻海も、同じ直系家族な企業なので、カリスマ経営者が去った後がどうなるか注目しています。