【本】危機の指導者チャーチル

 冨田 浩司 新潮社 2011/9

外交官によるチャーチル伝。危機のリーダーシップについて、チャーチルが痛感したことは、

 戦時において国家を指導するためには、軍事、外交、経済のあらゆる側面を指導、監督する権限を確保する必要があるという点であろう。p.151

軍人出身で、さまざまな大臣を経験したチャーチルですら、権限集中なくしては指導力を発揮できない。それが現実だということです。本書では、ダーダネルス海峡突破作戦の失敗と、チャーチルが40年間の政治家としてのキャリアを振り返ることで、危機のリーダーを作ることがどれほど困難かを描いています。

実際、英国政治は戦時中であっても、一寸先は闇でした。

Events, dear boy, events.      p.194 by Harold Macmillan

The Opposition don’t win the election. The Government lost it.  p.195

といった名言も紹介されていますが、決してドイツに対して安定してパンチを繰り出していたわけではありません。しかし、

この国の制度は、権力の濫用に対して様々な歯止めを設けつつも、結局は政治は人が行うということを正面から受け止める仕組みを形作っている p.299

というのが印象的です。

チャーチルとハリファックスを比較する下りでは、チャーチルのPassionが印象に残ります。

戦いながら斃れた国家は再び立ち上がるが、従順に降服した国家はおしまいだ  p.239

国家を救うために、高齢でありながら、外交にも努力します。

 この飛行機(B24)には、ベッドの代わりに棚が設けられていただけで、暖房もなく、高度1万2千フィートを超えると酸素マスクを使用する必要があった。p.262

危機の指導者の3つの資質は、以下のとおり。

1 コミュニケーション能力

目的意識の明確化

2 行動志向の実務主義

ACTION THIS DAY

Don’t fight the problem. Decide it. (George C. Marchal)

3 歴史観
 巻末は耳が痛いこの言葉。

指導者を選ぶのは、国であり、政治であり、国民である。p.300