【本】ビジネスZEN入門

ビジネスZEN入門

松山 大耕 講談社新書 2016/10

妙心寺退蔵院副住職による禅入門。ビジネス書というよりも、日本文化論でもあり、禅の本質に迫る論考。タイトルとは異なり、禅が商売に直結するとは言っていません。むしろ、逆で、

仏教、特に禅の教えは特に何かを得るための手段ではありません。むしろ、失うためのものなのです。p.7

禅は、ゲインではなくルーズである としています。

禅の特徴の一つが、シンプルで美しいこと。デザイナー、Dieter Ramsの言葉で言えば、”Weniger, aber besser” p.25 です。

次が、体験主義。

禅は、体験がすべてだといっても過言ではないほど体験や実践を重んじます。それ自体が禅にとっては修行なのです。p.30

そして、陰徳(P.42)。人の見ていないところで善行を積むこと。

第2章では、世界の仏教の考察。面白かったのは、大乗仏教のお国柄。

(中国、ミヤンマー、タイなどは)ルールが非常に厳しいです。しかし、行ってみて感じたのは、規律が非常に緩いということです。たとえば坐禅中に寝ていtり、掃除を適当にしていたりする方がいました。(中略)一方、日本では、ルールはそれhど厳しくなくとも一挙手一投足にこだわります。掃除の仕方、食事の作法、その一つひとつが実に細かくきちっとしている。p.71

第3章は、グローバル人材論。グローバルリーダーは、周りがお膳立てして教育することによって生み出せるものではないという立場。

第4章では、ビジネスの現場で実践できる禅の教えが紹介されています。私が興味深かったのは、サントリーのチーフブレンダー輿水精一さんの話。p.155

最高のウイスキーは、できのいい樽のウイスキーだけをブレンドしてもつくることはできません。どうしようもないなと思えるような、できの悪い樽のウイスキーを少し混ぜてやらないと本当によいウイスキーはできないのです。

もう一つは、所作の重要性に触れているところ。

お茶を出す仕草や障子の開け閉めを見るだけで、ああこの人は大体何年修行しているかというのがわかります。 p.174

これも、お茶が飲めればいい(Gain)という価値観の人には、理解できない要求ですね。

禅の不二とは、「一体」「一つの如し」と言う意味。

仕事でうまういっていてもなぜか充実感がない。楽しくないというような場合も、不二の態度が大悦です。つまり、自分と対象物が分かれてしまっていると、そのように思えてしまうのです。自分は自分、仕事は仕事、クライアントはクライアント。それではいけない。他人も自分のことのように考える。他人も自分も分け隔てなくやるというところまで行かないと、最終的な自分の満足というものも得られないと思うのです。p.182

以下、感想です。最近、日系企業でアジア・パシフィックの人材育成に関わる機会がありました。ニュージーランドからインドまで、バックグラウンドの異なる参加者に、日本企業の良さを伝えつつ、幹部として育ってもらうために、何を話すべきか考えました。これが、結構、難しいのです。国際会議を成功させるコツは、日本人に話させて、インド人に静かにしてもらうことだというジョークがあります。同じテーマで話しても、コミュニケーションの方法から違うのです。

本書を読んで、日本企業の企業文化を考えてもらうキッカケとして、禅はよいと思いました。禅の思考が、世界に冠たる製造品質や、おもてなしのサービスを生み出す一方、過労死の遠因にもなってはいないかと議論することは、有益だと思いました。オリジナルがインドなのに、日本で独特の進化を遂げ、アメリカ人のスティーブ・ジョブズにも影響を与えたというのは、アジア・パシフィックの参加者の興味を引くことでしょう。

では。