中島聡 文響社 2016/6
元マイクロソフトの伝説のプログラマーの仕事術。英語を学んで、海外でプログラミングの仕事をしようとする若い人は、著者の体験に励まされるでしょう。具体的な時間管理手法は、システム開発のプロジェクト管理の教訓に沿ったものです。
著者自身も認めているとおり、国語は勉強しなかったそうなので、うまく本意が読者に伝わってないかもしれません。私がMBAで3ヶ月苦闘して学んだプロジェクト・マネジメントをやさしく書いてくれているのですが、中島さんが天才すぎて、まだ「通訳」が必要なのだと思います。
プロジェクト・マネジメントのクラスで最初に教授が言ったのは、アメリカのシステム開発の80%は「失敗」だったという事実です。ここでの「失敗」の定義は、プロジェクトが
時間どうり、期待どうり、または予算どうり に終わらない
ということです。8割のプロジェクトは、締切までにできなかったり、使いづらかったり、予算オーバーしたりするのです。その原因は、いろいろあるのですが、有名なのが、ブルックスの法則と呼ばれるものです。要は、人間が、時間を客観的に把握できないことに由来するのですが、マイクロソフトのOS開発というお巨大プロジェクトを期日どおり(というか、本流のチームを追い越す)というのは、驚くべきことなのです。
授業では、どうやったら、期日どおり、期待どおり、予算どおりにプロジェクトを完成できるか、その手法を学びます。メンバーは、時間を公平に把握できないため、締め切り3週間前までは、プロジェクトが「順調」に進んでいるようにみえます。しかし、残り3週間となると、あれもできていない、これもできていないと気づき始めます。
そこで、愚かな管理者は、外部の応援を頼んでしまうのですが、これが、かえってプロジェウトを遅らせてしまうのです。
9人の妊婦を集めても、1ヶ月で赤ちゃんを出産することはできない
のです。
本書は、こうしたエッセンスを口語体で語ってくれています。
- プロジェクト・マネジャーとメンバーとのコミュニケーション
- 「頑張ります」という精神論は、むしろ、プロジェクト管理の敵。間に合わないなら、その旨をマネジャーに伝えなければならない。
- タスクを細かく区切って、一つ一つのタスクを期日どおりに終わらせる
- タスクは、必ずしも、100%完成させる必要はなく、8割まで完成させたら、次のタスクに取り掛かる
- 最後まで自分で抱えるのではなく、プロトタイプを早めに作る
など、私には、非常に深い学びのある授業でした。こういう考え方に反発する人がいるのもわかりますが、プロジェクト管理の手法は、システム開発だけでなく、他の分野でも応用できると思います。
もしも、本書の意味がわからないという方がいらっしゃったら、自分の勤務先のシステムが使いやすいか思いを馳せてみてください。もしも、遅れたシステムを使っているなら、そのの原因は、プロジェクト管理のマネジメントが社員に浸透していない可能性が高いです。