峯村 健司 小学館 2015/2
ボーン・上田賞を受賞した朝日新聞記者による中国共産党の権力闘争分析。これまで「点」でしかなかった事件が、「線」になって理解できました。13億人の頂点に立つリーダーは、8600万人の共産党内の権力闘争によって生まれるのです。
冒頭は、ロサンゼルスの月子中心(Yuè zi zhōngxīn)の描写。二奶村(Èrnǎi cūn)から、中国の裸官(Luǒ guān)の動向が伺えます。
2008年までの10年間、海外へ逃亡した政府や国有企業の幹部は1万6千~1万8千人に上り、中国から流出した資産は8千億元(14兆4千万円)に達する。p.28
第4章では、習総書記誕生の舞台裏が描かれています。院政を敷いていた江沢民(Jiāng Zé Mín)と、江沢民に押さえつけられていた胡錦濤(Hú Jǐn Tāo)。二人の最後の闘争の産物が習近平政権でした。
第7章は、李克強(Lǐ Kè Qiáng)と習近平を比較しています。習近平は、共産党幹部の子息であり、父の失脚と復活を見ています。自ら下放も経験。そんな境遇でも、若い時に、いくつもの軍の要職を経験。全て上に立つことを見越しての戦略でした。
英才の李克強との対比によって、習総書記の性格も浮き彫りになります。
おまえの言うように李克強の方が個人としては有能なのは確かだが、同じぐらい頭脳明晰な党員は、我が党にはいくらでもいるんだ。最高指導者にとって最も重要なのは、そのたくさんの優秀な党員たちをまとめ上げていく『団結力』なんだ。習近平は、引退した高官宅をまめに慰問し、部下の意見にもじっくりと耳を傾けてきた。私の知る限り、この能力において習よりたけた人物は党内にはいないと思っている。p.233
習氏が最初に取り組んだのが、腐敗撲滅キャンペーン。処分された党員は、2年で25万人。(p.241) 汚職摘発に危機感を募らせる最高幹部達は、クーデターを企てます。薄熙来の資産は7200億円(p.257)、周永康(Zhōu Yǒng Kāng)の一家の摘発された資産は2兆2千億円(p.272)。この資産の大きさからだけでも、事態の深刻さが伝わってきます。
第9章は、今後の展望。
私が想定する最大のリスクは、「強大になり過ぎる習近平」だ。p.303
中国のジニ係数が、2014年に0.73に達した。p.309。この格差是正を喫緊の課題と指摘しています。最後は、習近平が良く引用する荀子(Xún zi)の言葉。
君者舟也、庶人者水也。水則載舟、水則覆舟。
Jūn zhě zhōu yě, shù rén zhě shuǐ yě. Shuǐ zé zài zhōu, shuǐ zé fù zhōu.