【本】まぐれ—投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのかまぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか

Fooled by Randomness   The Hiden Role of Chance in Life and in the Markets

Nassim Nicholas Taleb  ダイヤモンド 2008/1

東洋経済の2008年上期 経済・経営書BEST 100 第9位。 元ファンドでクオンツをてがけ、今は大学教授である著者の金融市場論。Sir Karl Raimund Popperの話などがでてきますので、哲学などの素養があれば、さらに楽しめると思いますが、そうでなくても、偶然が市場に引き起こす事象の影響について、いろいろ考えることができる本でした。

まず、参考になるのが、ノイズと情報を区別すること。投資してると、ノイズに振りまわされるのですが。

ノイズと情報の違いについては、この本にはもう格好のたとえば出てきている。マスコミと歴史の違いだ。マスコミでありながら有能な人間であるためには、物事を歴史家のような視点で見て、自分が提供する情報の価値を割り引いて考えなければいけない。たとえば、こんなふうに。「今日の市場は上昇しましたが、あまり重要なことではありません。こういう情報はほとんどノイズばかりだからです」.82

毎日、テレビではもっともらしい解説をしていますが、すべてのプライス・アクションに理由があるわけでもないですね。

賢者には意味が聞こえる。バカには雑音しか聞こえない。p.89

この考え方を延長した先にトレーダーの要件が出てくるのですが、このたとえが面白かったです。

興味深いのは、生き残るのが一番年を重ねた者である点だ。お年よりはまれにしか起きない事象に直面した経験が多く、だから、筋の通った話だけれど、そういう稀にしか起きない事象に抵抗力があるの。交尾の相手選びにはそれと同じような進化の仕組みが働いているという主張があるのを知って私は驚いた。つまりメスは、他の条件が同じなら、健康な若いオスよりも健康で年寄りのオスを交尾の相手に選ぶ傾向がある。p.88

次に、同じ価格の動きでも、私たちの心理的な負担は違うことを認識せねばなりません。

平均的な損失で人が感じる苦しみは、同じだけの利益で人が感じる喜びの2.5倍の衝撃力を持つ。p.93

同じような心理学的なことで、「消防署効果」を紹介しています。

消防士は休み時間にお互いにとてもよく話すので、仲間の輪の外から客観的に見るとむちゃくちゃにしか思えない考えを持ってしまう。p.112

プロのディーラーは、ディーリングルームの空気から逃げられないんですね。この直前で、98年にロシア国債を買ったトレーダーが紹介されています。

それでは、どうすればよいのか。p.130にミーティングの模様が描かれています。相場が上がるのかさがるか聞かれた著者は、70%の可能性で上がると答えます。ポジションはどうするのかといわれて、ショートと答えます。同僚は混乱するのですが、期待値からすれば、矛盾はありません。つまり、相場が上昇しても、利幅は限定されるのに対し、可能性が低くても下がる場合には、大きく値を下げる。確率論からいえば、ポジションはショートなんですね。

ここまで、冷静に自分を律することができるひとが、相場で長く生きながらえるんだと思います。

では。

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【参考】
池田信夫さんのブログ