冨山 和彦 PHPビジネス新書 2012/2
経営共創基盤による企業分析入門。投資家目線ではなく、実務家(特に事業再生家)目線の財務分析を解説しています。
第1章では実務家の経営分析の特徴を解説。健康診断との類似点を指摘(p.24)しながら、経営分析の目的を
隠れた病気を発見し、今後の治療と将来の予防に役立てるのがリアルな経営分析であって、過去を評価するためのものではない。p.28
としている。投資家目線の分析が、画一的な比率分析になりがちなのに対し、実務家の分析はいつもテーラー・メイドだとしています。
財務分析をする際に、事業経済性(ネットワークの外部性)から入っています。事業経済性とは以下のような視点。
- 規模の経済(Economy of Scale)
生産量が増えるにつれて、原価率が減ること
- 範囲の経済(Economy of Scope)
事業を多角化することで、原価率が減ること。経営資源を共有することで、それを有効に利用できるケースに当てはまる。
- 密度の経済
事業をある範囲に集中させることで、原価率が下がること。コンビニのドミナント出店など。
- ネットワークの外部性(Network externality)
その製品の利用者数が、効用に影響を与えるという性質のこと。たとえば、電話は1人しか使っていなければ無価値。
投資家は、無数にある企業から投資先を選ぶため、標準化によるスクリーニングをせざるをえない。決算書を競合他社と比べ、財務比率の良し悪しで判断しがち。
一方、実務家は、対象となる企業のビジネスモデルや、コスト構造を分析し、儲かる仕組みを見極めてから、必要な数値を比較する必要がある。例えば、P.103では、4つの業界の付加価値率の違いから、同じ利益率で判断できないことを説明している。卸売業は原価率が高いが、外食チェーンは低い。
(前略)卸のように付加価値と共有コストが薄い業種では、売上規模と利益率が正の相関を示さないこと。(中略)
一般に、規模が大きくなれば利益率も上がるような気がするかもしれないが、実はそういう業種は驚くほど少ない。9割方は規模の経済が効かない業種だと思っていいのではないか。p.108
逆に規模の経済が効くのが、自動車産業と素材産業。
外食産業は、付加価値率は高いが、共有コストが少ない産業P.110。チェーン店が増えても、店舗間、メニュー間の共有コストが薄い。立地と店長の能力が絶対条件。企業が大きくなるかどうかは、
店長軍団を率い、分散的なものをひとつの企業体に統合する総店長としての経営トップの才覚で、その外食企業がどこまで大きくなれるかは、かなりの部分決まってしまう。p.111
と指摘。システムインテグレーターの例も紹介しています。p.112
管理会計の重要性は、p.218の一言
経営改善の基本は、単品管理を徹底することである。