【本】我、弁明せず


江上 剛 PHP研究所 2008/3
三井銀行 池田成彬(せいひん)の物語。安田善次郎もそうですが、右手に算盤。左手に論語のサムライ・バンカーを感じました。
 銀行員は人を見て貸せとは言われるものの、そんな眼力は容易に身につきません。戦前にそんな「銀行道」を突き進んだ姿が、印象に残ります。

バランスシートは良いけれども、どうも不安だと思えば現場に行ってみる。(中略)現場に行ってみて、例えば工場からどんどん製品が作られているのを見ると、安心して、つい融資したくなる。しかしそのときはバランスシートに不審な点がないかよく見なくてはならない。p.140

 三井が不採算部門の呉服店を売却する際、MBOによってデパートメントストアとして再生するのをファイナンスしています。100年の時を経て、百貨店は同じように苦境に立たされていますが、今の銀行の行動と比較すると興味深いです。
 次に、人材の宝庫だったことが印象に残ります。一時期の興銀がそうでしたね。p.135あたりに、小林一三とのやりとりが紹介されています。後に、大企業の社長になる人が、三井銀行を支えていました。出身もバラエティに富んでますね。池田自体も、時事新報社からの転職です。後段になって、経営者とジャーナリストの共通点に触れる件があります。情報収集力と情勢分析力は、たしかに通じる所がありますね。
 最後は、政治的な動きになり、右翼との交流にも触れられています。この点は時代背景を割り引かなければならないでしょう。
 2008年以降、あまりに力が強くなった金融が世界経済に与える影響の再考が続いていますが、こうした銀行制度創業期の先人に学ぶ時ではないかと思います。