【本】起業という幻想

The Illusions of Entrepreneurship: The Costly Myths That Entrepreneurs,Investors,and Policy Makers Live

Scott A. Shane

スコット A シェーン 白水社 2011/9

Case Western Reserve University教授による起業についての実証研究。これから起業を目指す人にとっては必読書だと思います。

本書は、私たちの「思い込み」に対して、様々なデータを示して反証しています。

 自分のビジネスを持っているアメリカの世帯は、1983年の14.2%から、2004年には11.5%にまで減少している p.29

他にも、

  • ペルーは、アメリカよりも3.5倍の割合で新たなビジネスを始める人がいる。
  • 起業家は、魅力的で目を惹くハイテク産業などではなく、建設業や小売業などの、どちらかというと魅力の薄い、ありきたりの業種でビジネスを始める場合のほうが多い。
  • 新しくビジネスを始める動機のほとんどは、他人の下で働きたくないということに尽きる。
  • 仕事を頻繁に変える人や、失業している人、あるいは稼ぎの少ない人の方が、新しいビジネスを始める傾向にある。
  • 典型的なスタートアップ企業は、革新的ではなく、何らの成長プランも持たず、従業員も一人で、10万ドル以下の収入しかもたらさない。
  • 7年以上、新たなビジネスを継続させられる人は、全体の3分の1しかいない。
  • 典型的なスタートアップ企業は、2万500ドルの資本しか持たず、それはほとんどの場合、本人の貯金である。
  • 典型的な起業家は、他の人より長い時間労働し、誰かの下で雇われて働いていたときよりも低い額しか稼いでいない。
  • スタートアップ企業は、考えるよりは少ない仕事(雇用)しか生み出さない。

p.36では、OECD諸国で自営業の割合の表があります。最高なのは、トルコ(30.0%)。アメリカは7.2%と下から2番目。日本は10.8%。

p.140には、ベンチャー企業の企業形態の表があります。

個人事業 59.8%
General Partnership 14.9%
Limited Partnership 6.4%
有限会社 10.2%
S法人 3.8%
一般法人 3.8%

ほとんど個人事業というのが現実です。

資金調達についても、

 ベンチャー資本家は、この国で毎年創業されるあらゆるビジネスのわずか0.03%以下に対してしか資金供給していないのである。p.127

起業率と成長率には相関があるが、これは時系列でみると、成長率が上がったために起業が増えたと考えられる。政府の補助金や低利融資などは、非効率な中小企業を増やすだけだ。
 また、著者は、政府のベンチャー育成政策の実効性についても、データをあげて疑問を呈しています。重要なのは、

きわめて高井潜在可能性を有するわずかな会社の設立が、起業家精神に富んだ経済から得られる成長、雇用、富の想像のほとんどを産み出しているのである。p.224

という事実を認識し、

成功するための教育と職業経験を持つ起業家に資源を投入する

ことです。

日本も状態は変わらないと思います。勉強になりました。