情報革命による社会思想の変化を論じる本。『体制維新』は政治の体制を変革しようという本でした。本書は民主主義自体を問うています。3.11以後、日本の政治に根本的な欠陥があると感じている方も多いでしょう。民主主義にまで遡って考え直したいという方にはおすすめです。
「一般意志」は、J・J・ルソーが18世紀半ばに『社会契約論』の中で唱えた言葉です。著者は、ルソーが、一般意志の成立過程において、そもそも市民間の討議や意見調整の必要を認めていないことに着目。p.54 複雑になりすぎた現代社会では、ひとびとが集まって熟議によってものごとを決める理想的な民主主義が不可能になったと分析しています。
一方、ITの進化によって、「総記録社会」が出現 p.85。この技術進化がルソーが思い描いていた一般意志を実現し得るようになったと主張しています。
一般意志とはデータベースのことだ、というのがこれからの議論の核になる主張である。p.83
その結果、新たな製作決定方法として、
これからの統治は、選挙を行い、議員を選出し、何週間も時間をかけて政策審議を繰り返すなどという厄介な手続きをすべて打ち棄てて、市民の行動の履歴を徹底的に集め、その分析結果にしたがって行なえばよいということにならないか。p.170
と問題提起をしています。もちろん、古今東西の政治思想家、哲学者の考えもカバーされており、政治の厳しさにも触れています。
Carl Schmitt Der Begriff des Polotischen(1932)
政治の本質は、「友」と「敵」を分割し、敵を存在論的に殲滅することにある。p.76
読み終えた感想です。これまで政権批判はあまたありましたが、民主主義自体について批判的に考えることがあまりなかったと思いました。ITといえば電子投票ぐらいでそれすらできないのが現状というところで思考が止まっていました。この高齢化社会で、本書のような政治が実現する可能性を高く見積もることはできませんが、問題提起のひとつひとつは、議論する価値があると思います。