若年者就業の経済学
太田 聰一 日本経済新聞出版社 2010/11
週刊ダイヤモンド 2011年のベスト経済書第3位。この20年の労働市場の変化は、若年就業者の変化に象徴されており、データを駆使した学術的な分析をじっくり読むことができます。結論は既知のものが多いのですが、こういう地道なデータ分析は貴重だと思います。
所得格差や就業率、非正社員比率等のデータから、近年、若年者の世代内格差と若年者と中高年層との世代間格差の双方が拡大している傾向がみられる。p.43
具体的には、
1999年から2004年にかけて若年者の所得格差が大きくなっていること p.2
が紹介されています。図1-1に年齢階級別ジニ係数であり、30歳未満の係数が上昇しているのがハッキリわかります。出身校にかかわらず、一律の初任給が当たり前だった私の新人時代とは違ってきてますね。
総じて、若年正社員の仕事で失われたのは『良い仕事』であり、それは男性にとって顕著である。そしてシェアが大きく上昇したのは、中小企業におけるサービス職という、最も給与水準が低く、労働時間も比較的長い職種であった
特に、「世代効果」についての検証が興味深いものでした。
日本についてのこれまでの研究によれば、賃金水準や就業状態、転職行動に世代効果があることが明らかとなっている。p.114
世代効果とは、
不況期に学校を卒業した世代が、そうでない世代に比べて労働市場で不利な状況に陥ってしまう現象 p.84
賃金や就業状態をについて回帰分析すると、学卒年の効果が大きいことが確認されています。こうした氷河期を生み出した原因は、不況期に若年性社員の人員を大きく減少させる企業行動。企業特殊的訓練を実施する糸が強い企業では、新卒ウエートをおいた採用が行われています。
置き換え効果とは、若年と中高年が雇用において代替関係にあり、何らかの理由で中高年の雇用が優先されること p.164 中高年がこれまで若年がしていた仕事に急速に進出していることが描かれています。就業率の置き換え効果は、企業規模が比較的大きく、勤続年数が長く、賃金水準の高い地域で顕著。インサイダー・アウトサイダー理論と整合的。
など、労働市場の問題については、かなりハッキリと認識できます。
中小企業経営者の視点から労働市場の変化をみると、また違った景色になると思っております。