【本】経済古典は役に立つ

経済古典は役に立つ
竹中平蔵 光文社新書 2010/11 

佐藤優氏との対談で引用されていたので、読みました。

中央公論 2012年1月号
日本が世界に喰われないために
佐藤優×竹中平蔵


本書は、慶応大学丸の内キャンパスにおける講義が元になっています。企画した城取氏が素晴らしいですね。自分は経済古典の専門家ではないと断る著者に、実際に製作を経験された竹中さんの講義が聞きたいと迫った。素晴らしい。本書も、古典解説にとどまらず、意識は、現実の日本経済に向いています。

冒頭では、サマーズとの会話が印象的です。著者があなたはケインジアンかと尋ねると、そんな質問はアメリカでは受けたことがないと同氏が答える。経済政策を議論するときにも、日本はまず、「どこの組の者か」というのが重要なんですね。
本書では、アダム・スミス以降の主な経済学者を取り上げ、ポイントを解説しています。

第1章 アダム・スミスが見た「見えざる手」
第2章 マルサス、リカード、マルクスの悲観的世界観
第3章 ケインズが説いた「異論」
第4章 シュムペーターの「創造的破壊」
第5章 ハイエク、フリードマンが考えた「自由な経済」

この簡潔なサマライズが、竹中さんの真骨頂ですね。時系列で経済学者の業績をたどることで、それぞれが、その時代の経済問題に対して、真摯に解決策を探していたのがわかります。

以下、印象に残ったポイントです。
Adam Smith

なぜ1776年まで経済学はなかったのだろうか?(中略)「それ以前は経済的自由がなかった」ということである。それ以前の世界では八百屋の息子に生まれた人は八百屋になるしかなかった。p.23

 自由が増せば社会が混乱する恐れがあったが、「社会の秩序はどのように保たれるのか」と問い、「見えざる手」が解決すると主張したのがスミスだった。自分の利益を追求する方が、実際にそう意図している場合よりも効率的に、社会の利益を高められることが多いとした。市場システムが登場する以前の1639年、ボストンの裁判が紹介されています。p.28

「人は物をできるだけ安く買い、できるだけ高く売ってよい」などというのは誤っている。「富のために富を求めることは強欲の罪へと堕ちていくことだ」

 堀江社長の判決思い出しますね。
 富の源泉は労働であることも明言しています。p.45

マルサス

 現実には、マルサスやリカード、あるいはマルクスが想定したように、子どもの数を増やしていくのではなく、豊かになればなるほど子どもの数を減らしていったのである。p.83

J.M. Keynes
 ケインズ問題意識は、見えざる手が解決できない大恐慌でした。
 アメリカが株価大暴落で失った経済的損失は、冬至のアメリカ連邦予算の10年分だったと言われている。これを、日本の1990年代初頭のバブル崩壊と比べてみると、(中略)年間予算の約4年分に相当する金額だ。p.95
 この強烈なショックへの処方箋が、ケインズ経済学だったわけですね。

シュンペーター
 同じ大恐慌を見ていても、「不況なくして経済発展なし」という考えたのがシュンペーター。イノベーションの重要性を主張し、フィナンシェについての考え方も興味ふかいですね。池田成彬や中山素平の業績にも触れています。