世界経済は通貨が動かす
行天 豊雄 編 PHP研究所 2011/11
国際通貨研究所の報告書。欧州危機で混乱する世界経済を通貨の面から振り返ることができます。
過去5年を振り返るのではなく、1960年から世界の金融を見ているので、安定した視座が得られます。アメリカ経済の不安定さは、たしかに私が学生のころから言われておりました。
いずれドルに対する信頼が失われ、ドル相場は暴落し、米国長期金利は急騰し、米国経済は破綻するだろう p.20
ところがそれは起こりませんでした。ドルに変わる基軸通貨は現れず、黒字国はドル資産を購入して、長期金利の上昇は起こりませんでした。
本書は、2007年の危機でこの好循環が終わったと見ています。市場の調整力が万能ではないことが判明したわけですが
2007年の危機は明らかに金融資本主義の前途に問題を定期したのだが、その答えは出ていないのである。p.26
としています。
中国の通貨政策は、米国の一極支配に挑戦するという国是の一貫と理解。ドル基軸体制に異を唱えつつも、長期にわたってドル基軸体制が続くという前提で現実的な対応をしていると分析しています。
相場問題について米国は非常に批判的であるが、米国が中国に対して有効なカードを持っていないことは明らかであり、勝負はついている。p.32
多極化時代には主要国であっても、自国の目標を達成するためには国際協調を必要とするとしています。このあたりは、スマートパワーと通じるところがあります。
感想ですが、欧州の混乱は、他山の石だと思いました。日本はいまだに、対岸の火事のようにみていますが、本書を読んでいると、こうした多国間の調整と、時間のかかるプロセスは、21世紀の世界経済では当たり前の風景であるのがわかります。我々も、こうした「手間のかかる政治」と向き合わなければならないのがわかりました。観客にとっては、スカっとしないゲームが続きますが、こうした多国間交渉をやりとげる力が、自国の利益を確保するのだと思います。
では。