ケビン・メア 文春新書 2011/8
国務省元日本部長の日米論。率直に日本ガバナンスの問題点を指摘しています。
著者は、3月6日の「沖縄の人々はごまかしとゆすりの名人」報道によって辞意を固めていましたが、「ともだち作戦」のために米国務省の調整官として”All Hands on Deck”しました。生々しいのは、日本時間の3/12の午後、東京電力から駐日米国大使館に真水を大量に運べるヘリコプターの照会があったとするくだり。東電が原子炉冷却のための海水注入を躊躇してたことを示しした証言です。著者は、こうした情報が官邸や官庁に共有されていなかったろうと推測。有事に対して、司令塔不在となった日本を描いています。結果、
米政府が福島第1原発事故直後、東京在住の米国人約9万人や在日米軍を避難させる最悪のシナリオを検討していた
と述べており、避難勧告が20kmとか80kmとかいう話ではない、日本政府への不信があったことがわかります。p.35
天皇陛下のビデオメッセージが、アメリカ政府に与えた衝撃も興味深いものでした。p.34
官僚主義についても苦言を呈しています。ホワイトハウスが原発警備の手薄さを指摘した時の、日本政府当局者の回答p.43
日本の原発に、銃で武装した警備要員は必要ではありません。なぜなら、銃の所持は法律違反になるからです。
原発関連でいえば、米国は、全電源喪失をテロ対策として検討していたことをp.47で述べています。津波がどうのこうのではないのですね。
政治家についても、短くコメントしていました。鳩山、菅政権については辛口のコメント。小沢議員については、大訪中団の対米外交への影響を書いています。
沖縄「ゆすり」発言については、発言そのものは否定しているものの、沖縄の構造的な問題を指摘しています。本書で指摘されている点については、議論を深める必要があると思いました。
安全保障の問題としては、中国の脅威を深刻に受け止めており、韓国に対しても直言しています。
震災対応以外にも、指導力不足を指摘している点がありました。JAL123便が墜落した時、米国から、夜間スコープが使える特殊部隊の提供申し出があったのに、断ったのが印象的です。
少ないですが、米国を批判する部分もありました。ブッシュ政権が、北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除したことなのです。p.105
振り返ると、幅広い範囲のことについてコメントしており、日本のガバナンスを考える好著になっています。