安宅和人 英治出版 2010/11
Yahoo COO室長の知的生産論。脳科学者でもあるので、脳の働き方に沿った方法を提案しています。
要諦は、「イッシュー(論点)を限定」し、本当に答えが出るかどうかを見極めてしまうこと。CEOの伝記を読むと、この能力に触れていることが多いですね。
イシューとは、「2つ以上の集団の間で決着のついていない問題」であり「根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題」の両方の条件を満たすもの。
よいイシューの3条件は、
- 本質的な選択である
答えが方向性に大きく影響する - 深い仮説がある
常識を覆すような洞察がある - 答えをだせる
p.71のノーベル賞を受賞したRenato Dulbecco氏が、これまたノーベル賞受賞者の利根川博士を評して言います。
トネガワはそのとき利用可能なテクノロジーのぎりぎり最先端のところで生物学的に残っている重要問題のうち、なにが解けそうかを見つけ出すのがうまい
先端科学でいう「微妙か境界領域」を見極める力が、ビジネスでも役立つんですね。その割合は、
気になる問題が100あったとしても、「今、本当に答えを出すべき問題」は2、3しかない。さらに、そのなかで「今の段階で答えを出す手段がある問題」はさらにその半数程度だ。
p.73
私のような生活を送ってきた者には耳の痛い話であります。
イシュー特定の3つのコツは、
- 一次情報に触れる
- 基本情報をスキャンする
PorterのFive Forces + 技術・イノベーション、法制・規制 - 集めすぎない
ある意味「勘」を推奨するようなタイトルになっていながら、
「一次情報を死守せよ」
p.39
というところに、本書の深みがあります。なぜなら、
脳は脳自身が「意味がある」と思うことしか認識できない。そしてその「意味がある」と思うかどうかは、「そのようなことが意味をもつ場面にどのくらい遭遇してきたか」によって決まる。
p.40
ためです。猫の「タテ縞実験」はとても興味深いものでした。
イシューをめぐる実務についても具体的なアドバイスが多数あり、参考になります。
読み終えて、MBAのクラスで、Reverse Engineeringを習ったときのことを思い出しました。ものづくりやプログラミングをしている人が、最終製品からこれほどモノづくりやプログラミングが学べるというのは発見でした。金融界ではない習慣でしたので。ビデオの逆回しのような映像が脳に何本も埋め込まれているエンジニアは、新商品を設計する時間も、最終的なアウトプットを自然にイメージして研究に没頭するのだろうなと思った次第です。
大賀さんがおっしゃっていた「プロダクト・プランニング」にもちょっと似てますね。市場がその製品を求める時点から逆算して設計しなければならないという意味で。
ビジネスマンはもちろん、ジャーナリスト志望の方も読むべき本かもしれません。
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