【本】長銀最高裁無罪事件読本


更田 義彦 信山社 2011/8

長銀裁判の記録本。99年の強制捜査から08年に最高裁で無罪判決を受けるまでの9年間を扱う大変な労作です。正直申し上げて、ベストセラーになるとは思えない内容でありながら、これだけの記録を丁寧にまとめた関係者に敬意を表したいと思います。
この最高裁判決に、直感的に納得がいかないという方は多いと思います。(たとえば、http://gendai.ismedia.jp/articles/-/20182)そんな方にぜひ読んでいただきたい1冊です。

 目次は、こちら。裁判の資料は膨大で、とても1冊に収まりませんが、本書を読めば、新聞報道では知りえない、取り調べ、起訴内容、裁判の経過がわかります。
 私には法律の細かな点はわからないのですがが、金融、行政、会計、政治、司法がどのように関わっているのか良くわかりました。平時は、金融と行政は蜜月です。会計も大きく問題にはなりません。しかし、金融危機が起こると、政治が関わってきます。すると、司法が動き、金融・行政・会計のトライアングルに変化が起きます。。こういう非常時だったからこそ、相互の関係が浮き彫りになったのだと思います。
 司法の場で扱われるのは、違法性で、経営責任ではありませんでした。罪状はp.54の起訴状に示されています。証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と、商法違反(違法配当)の2点でした。 (判決の概要は、葉玉先生のエントリー参照)
 本書は、ただの裁判記録ではなく、時代背景から、取り調べの経緯ついても触れています。長銀を破綻させた自責の念から容疑を認めた大野木頭取が、行員らの供述調書を読んでいくうちに違和感を感じ、無罪を主張したことも書かれています。村木事件の後では、この裁判も冷静に振り返ることができるのではないでしょうか。
 p.44には取り調べの状況が書かれています。長銀関係者の供述調書は人数にして43名。のべ通数にして139通。個別の取り調べも厳しいものでした。大田秀晴取締役の場合、

取調べを受けたのは4月14日から6月30日まで、ウィークデイに限らず土日も含めて30回強 p.45

とあり、当時の取り調べの厳しさが伝わって来ました。 
 p.144には、上原副頭取が須田副頭取宛てに送った年賀状が掲載されています。

この困難な時期をいずれ静かに振り返って共に語る日が来るのに備えて、毎日しっかり生きていきたいと考えております。

 残念ながら、上原副頭取は、その日を迎えることができませんでした。東大野球部同期の与謝野馨大臣が日経に寄稿したエッセーは、こちらです。
 長銀破綻から10年が経ちますが、欧州では再び金融危機が起ころうとしています。取り付け騒ぎが起これば、またスケープゴート探しが始まるのではないでしょうか。将来の問題を避けるためには、過去に学ぶ必要があります。金融機関の経営に携わる方には、ぜひ読んでいただきたいと思います。
 
【参考】
朝日新聞 「長銀「国策捜査」事件、弁護団が無罪への裁判記録を刊行」
http://www.asahi.com/national/update/0924/TKY201109240478.html