【本】東日本大震災 大局を読む

東日本大震災 大局を読む!

日下公人 李白社 2011/5

日下先輩は、従来同様の姿勢で震災後の日本経済も分析しています。3.11は「絵」が強烈だったので、何か変わったと思いがちですが、正すべき点は、昔から変わっていないのだなというのが私の感想です。

 まえがきで、ジェネラリストの存在意義に触れています。

 カーター大統領は賢明で、しかも勉強家だから、52の分野について専門家に負けないほどの意見を持っている。しかし残念なことに、彼は52分野の優先順位をつけられないのだよ p.2

 今回の災害についても、自治体の姿勢に厳しいコメント。

 防潮堤を建設するお金があるなら住宅を高台に撮したほうがよかったのだ。住民の命がかかっていたのに、防潮堤にお金を使って誰が喜んだかといえば地元の土建屋である。地方自治体がお金ほしさに防潮堤をつくって足元の住民が犠牲になったというのが、今回の震災に対する私の想いである。p.24

 私は、原発は船にすべきと思ったのですが、先輩がオイルショック時に主張されておりました。p.49
 p.155では、20年前に岩手県の長期計画策定に携わった時の思い出話が紹介されています。シンポジウムで東大と明大の教授の意見が異なった。県庁の人がどちらが正しいかを議論しはじめたが、次第に、どちらが偉いかという議論になった。
 「どちらが偉いかを気にするより、二人の意見の中身を自分で考えなさい」というのが日下さん。県庁の人曰く「岩手県の山奥にいたら、どちらが正しいのか、考えられるわけがないじゃないですか」 この中央崇拝と権威施行による地域開発事業の失敗が、今回の大災害にも感じられるとしています。
 日本の分析では、こんな発言も。p.178

 今回の原発事故はやはり東電とそれを監督していた政府による人災だ。自然災害によって組織が内部に持っていた不合理が顕在化したが、歴史を見るとそういう大変化と大掃除はたいてい戦争がしている。
 日本はこれまで60年間も戦争をしていないので不合理が蓄積している。

 神戸の復興で、官主導の復興にも反対されています。

 県営や市営の事業は最初からどういうものか決まっているので、それで神戸はおかしな街になると思ったのだ。(中略)国家が10兆円のお金をつぎ込むと、それは県庁や市役所に渡る。県庁は県道や県立の公共施設しかつくれない。市役所は(中略)。
 阪神大震災から16年経っている。今、神戸の街は行ってみればわかるけれども、街を歩いても県道、市立病院、市営住宅など型通りの施設ばかりで、昔あった繁華街は消えてしまった。

 文句を言うだけの先輩ではありません。
 神戸では六甲山脈と海の狭いところに新幹線、在来線、高速道路、一般道路など京阪神の交通網が集中していたのが、問題だった。これを山奥のほうに分散させるのが役所の仕事。
 10兆円あるなら、神戸の消費税無税化でした。そうすれば、神戸は自律的に復興していったはず。「飲み屋ばかりになる」という役人に、「そういうことまで役人が口だすべきでない。神戸がどうなろうと、神戸にまかせればよい」と。 
 この線引きが政治家の本分なんですね。
 結びの言葉

東日本大震災の後に来るのは自由化と民営化でなければならない。神戸は他山の石なのである。p.196