地域再生の罠
久繁 哲之介 ちくま新書 2010/7
市民をないがしろにする都市は必ず衰退する。
一見、当たり前に思えるこの命題をさまざまな角度から考えさせてくれる本です。地方の衰退は、中央の失政にあるかのような報道もありますが、その根源は消費者目線の欠落にあるのが、わかりました。
地域再生の成功例といわれる都市に足を運び、それぞれが問題を抱えていることを指摘。「失敗例」が全国に拡散することに警鐘を鳴らす。
- 宇都宮109の撤退
- 松江市の天神町商店街と「がんばる商店街77選」
- 長野市「パティオ大門」の閑散
- 福島市「屋台村」が居酒屋チェーンに負ける
- 岐阜市の路面電車廃止とネーミングライツ
俎上に上がるのは、土建工学者と(官僚主義の)地方自治体です。最初に批判されるのが、大型商業施設。自治体アンケートの危うさを、HBSのRohit Deshpande教授の言葉を引用して指摘しています。p.24
Over80 percent of all market research serves mainly to reinforce existing conclusions, not to test or develop new possibilities.
そして、原因を詰めないままに新たな施策を打つことを批判します。
地域再生以外の分野で新施策を導入する場合、まず現行施策の問題・不適切さを指摘する。(中略)ところが、地域再生の新施策は、地域衰退原因を社会現象(少子高齢化、車社会、商業施設郊外化など)だけの責とみなし、現行施策の問題・不適切さが問われることはほとんどない。p.34
加えて、行政のメンタリティも分析します。
むろん彼らは立場上、「この施策を行う理由は、簡単だからです」とは口がさけても公言できない。(中略)専門家が推奨する「模倣が簡単なモデル」に、各自治体の取り組みが集中する。p.124
自治体の改革法としては、
- 役所責任の明確化
- 市民視線からわかりやすさ
を挙げ、その例として、佐賀県武雄市のいのしし課とがばいばあちゃん課を紹介しています。
最近のB級グルメブームも安易な取り組みを批判しています。
まず地域経済活性化ありきで「ネタ探し」から始まることが多い。地域色がない地域では、家庭消費量の多さなどの統計データからネタを探す地域も少なくない。(中略)
次に、地域経済を活性化するためだけに探し出した「無名の地域食」を有名にしようと懸命に宣伝する。むろん宣伝するには金がかかる。しかし、コストが高い割には、宣伝の効果は低い。
「おやじの論理」の批判は、自分も反省せねばと思いました。これまた直系家族の宿命とも言えるのですが…。
では。