なぜビジネス書は間違うのか
The Halo Effect by Philip Rosenweig
日経BP 2008/5
経営学にありがちな「9つの妄想」を検証し、ビジネスに万能の薬はないことを伝える本です。妄想は以下のとおり。
- ハロー効果
- 相関関係と因果関係の混同
- 理由は一つ
- 成功例だけをとり上げる
- 徹底的な調査
- 永続する成功
- 絶対的な業績
- 解釈の間違い
- 組織の物理法則
Halo Effectについては、p.91で第一世界大戦中のEdward L. Thorndike による調査が紹介されています。陸軍将校に兵士の評価をしてもらったところ、優秀と思われる兵士は、ほぼすべての項目で評価が高かったのに対し、そう思われてない兵士はどの項目も標準以下だった。
著者は、この危険性を企業評価にも当てはめています。すなわち、業績のよい企業からエッセンスを抽出しようとすると、ハロー効果でことを見誤ってしまうと。槍玉にあがるのが、ビジョナリーカンパニーなどのビジネス書です。
経営者の判断が、結果によって評価が分かれる例として、レゴ社の例が載ってました。新たな顧客を求めて新規事業に打って出るのと、浮気をせずに本業に専念するのは、相容れない判断なのですが、その評価は往々にして業績で判断されてしまいます。
引用されているボストン・レッドソックスのテッド ウィリアムス選手のコメントが印象的でした。
相手チームのランナーが塁に2人以上出ていて、バッターボックスに強打者が立つと、監督はマウンドまで出てくる。そしてピッチャーに「打たれにくいところをねらっていけ。ただし、フォアボールはやめてくれよ」というだけいって、さっさとベンチに引き上げるのだ。ばかばかしい!(中略)そうではなく、「ここではフォアボールはまずいから、ストライクゾーンをねらっていけ!」 もしくは「ここでは打たれたくないから、フォアボールで逃げろ」とはっきり指示してこそ役立つ助言なのである。 p.26
第5章では、相関関係と因果関係の混同が論じられています。
ある有名統計学者が、19世紀のアメリカで酔っ払って逮捕された者とバプティスト教会の説教師の数がきっちり相関していると発表したことがある。この相関関係は事実で、しかも顕著だった。だが、両者の増加は因果関係になく、別の要因、つまりアメリカ全体の甚句お世話になっております。増加によるものと考えられる。
第10章では、先日ご紹介したルービン回顧録にもでてきた蓋然的思考がでてきます。裁定取引同様、手痛い失敗でも、判断の誤りとは限らない。ビジネスをしているかぎり、そうした失敗が起こることを前提で前に進まなければならないんですね。
ビジネスは私たちが考える以上に、そして成功した経営者が認める以上に、運に大きく左右される
原因と結果の関係は明確ではない。失敗しても経営者の判断ミスのせいとはかぎらず、成功も経営者の手腕のおかげとはかぎらない。
本書を読むと、ビジネス書のベストセラーにあるバイアスを理解することができます。
では。