孫崎 享 講談社現代新書 2009/3
元外交官で防衛大学校の教授の安全保障論。東洋経済 2009年上半期 政治書Best 10の2位。新書とは思えなほど、内容が濃いです。圧倒的な資料の読み込みの裏づけがあることを感じました。
著者は、日本の安全保障の機軸である、日米安全保障条約は、実質的にすでに終っていると考えています。2005年10月に日本の外務大臣、防衛庁長官と米国の国務長官、国防長官が、「日米同盟:未来のための変革と再編」という文書に署名していおり、安保条約にとって代わったからです。この文書により、日米同盟の範囲は、極東から世界へ安全保障の範囲を拡大しました。
日本人が戦略に疎いのは、歴史的に第二次大戦後の米国占領期を除いて、外国の支配をほとんど受けておらず、切実な問題にならなかったことをあげています。他国は、敗戦の惨めさが身にしみているため、謀略を含めたありとあらゆる手を打ってきます。孫子の言葉が紹介されています。p.54
故上兵伐謀、其次伐交、其次伐兵、其下攻城
なかでも、アメリカは、国民の発言力が強いため、、国民を誘導する謀略がどの国よりも必要となります。
日米同盟を理解する鍵は、冷戦後の米軍の位置づけでした。冷戦終結後、アメリカには軍縮する道もありましたが、強大な軍事力の維持を選択し、単独行動主義をとってきました。徴兵制をなくした後も戦闘能力を維持するため、補給部門を大幅に民営化。産軍共同体が生き延びるのに、戦争が不可欠な要素になります。
こうした背景分析が十分に行われず(行われていても参考にされず?)米国の戦略に組み込まれていく日本に警鐘を発しています。
一方、日本の貢献についても、触れています。たとえば、極東からインド洋までカバーする米艦隊の旗艦が横須賀港を母港としていること。日本が米軍駐留経費の75%を負担してきたことなどです(ドイツは20数%)。
先日の海軍反省会でも触れましたが、軍政学の重要性にも触れています。
印象に残るのは、自衛隊のパイロットのせりふ。仮想敵機と遭遇した際、脳裏をよぎるのは、愛する人(家族)の為に死ぬということではなく、日本のためだというのです。
安全保障を考える原点なのでしょうね。
では。
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