デモクラシー以後
エマニュエル・トッド 藤原書店 2009/6
東洋経済 2009年上半期 政治書Best 10の2位。名著でした。
最初に抑えておかなければならないのは、家族人類学にもとづく家族の類型。
「絶対核家族」では、親子関係は自由だが相続は遺言によっていて不平等。子供の教育も直径家族に比べると熱心ではありません。イギリスやオランダにみられます。パリ周辺や、スペイン・イタリアでは、核家族でありながら、相続が平等的な「平等主義核家族」が現れています。
「直系家族」は、兄弟の一人だけが相続します。権威主義と不平等を特徴とし、ドイツ・スウェーデン・日・韓等とフランス中南部に見られます。
「共同体家族」は、息子はすべて親元に残り、大家族を作ります。
私は、50カ国を旅行してきて、似た国とそうでない国があるなと漠然と思ってきましたが、著者の家族類型が心にストンと落ちてきました。なぜ、こうした家族類型に今落ちついたのかという疑問はありますが、現在の国際事情をみるときには、きわめて有用なフレームワークだと思います。
こうした分類を元に、社会の変質をデータを下に、当該国の社会情勢を的確に指摘します。たとえば、乳児死亡率。
実数は、こちら。http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_infant_mortality_rate
旧ソビエトの死亡率が上昇しているのを指摘し、連邦崩壊を予測したりしています。また、アメリカの黒人の死亡率が高止まりしていることを指摘。アメリカ国内に起こっている社会変質も指摘しています。
そんな著者が、今回取り上げるのが民主主義と自由貿易。識字率が高まると、民主主義が社会に浸透するが、高等教育が広がると、エリート層が普通選挙に満足できなくなり、民主制が衰退する。
たとえば中国は、2000年の調査で、男性の14%、女性の40%が文盲であり、政治的な移行局面を終えていません。
こうした分析のフレームワークは、民主主義以外の要素、たとえば年金制度などにも応用できますね。非常に興味深いものでした。
では。