地政学が最強の教養である

 地政学が最強の教養である 田村耕太郎 SBクリエイティブ 2023

国立シンガポール大学 リークワンユー公共政策大学院 兼任教授による地政学入門。

 理論を学びたいのであれば、オーソドックスな入門書 の方が、わかりやすいかもしれません。現実に起きているニュースを参照しながら、どのように地政学を役立てるのかも、本書では扱っています。

  ウクライナ戦争を予見できなかった人には、地政学の重要性は説明するまでもないでしょう。プーチン大統領の考え方を読めなかった人は、その後の大荒れの相場に翻弄されました。

地政学の本質は、その国の元首になって考えること (p.48) です。

陸路で国境を接している国が一つもない豊かな島国で、自由民主主義の社会に暮らす我々が、普段の自らの社会における人間関係と同じ価値基準で、隣国の行動に目をやっても、見えてこない世界がある。

p.49

 というわけで、日本人には、とりわけ必要な学問でしょう。私もオランダに住んでやっと実感しました。

 もう一つ、指摘しておきたいのが、本書が地政学を「教養」としている点。日本では大学で一般教養を学びますが、入社と同時にそれを「忘れろ」と言われます。むしろ、会社の色に染まるのに邪魔だからです。

 一心不乱に会社のために20年ほど働いた末に、海外現法の社長になったとたんに、この教養が必要になります。語学、地理、歴史、気象、軍事学、宗教….。社長になってから、高校の世界史の教科書を読み返す人も多いでしょう。

 欧州の経営層は、良くも悪くも階級になっており、リベラルアーツを学び続けています。高級紙の週末号に掲載される文化関連の記事の多さには、すぐに気づくでしょう。それは、植民地を支配するのには必須の知識でした。日本企業でも売上の半分以上を海外で稼ぐのであれば、幹部教育を見直す必要はあると思います。

 最後は、リー・クアンユー首相の言葉でした。

日本は引っ越せないんだよ。中国の隣で小さく、貧しく、老いていたら、まずいよ。

世界の多くの国は自国の課題を認識できず窮地に陥る。日本は違う。優秀だから政府も国民も、課題おm解決策も全部わかっている。なのに、誰も行動を起こさない。それがとても残念だ。

p.339

  対応についても見透かされています。

 日本のリーダーは、”危機待ち”だ。優秀な人間ほど、”危機が来れば自分の出番だ”と思っている。自ら波風を立てるのは嫌い、おぜん立てを待っているのだ。国民や同僚政治家の目が覚めたところで自分が動き出そうと思ってる。それは間違いだ。真の危機が来たときはもっとも何もできない。国民も同僚政治家も危機が起こっていることについて違う理由を見つけてしまうだ。それは往訪にしてやるべき改革を抹殺するようなものだ。その時にはリソースもオプションもなくなっているのだ。(中略)

 好調な時にこそ、国民や自分たちに痛みのあることをあえてやらないといけない。そのタイミングは今しかないよ。

p.340