上司がアプリに代わったら?

New York Times (2023/4/17)に、こんな記事が掲載されていました。

 When Your Boss Is an App – The New York Times

 日本語に直すと、ホイチョイ・プロダクションのバブル映画のようなタイトルですが、原田知世もサザンも出てきません。むしろ、”Nickel and Dimed 2023″ とでも言える内容でした。

 Nickel and Dimed が書かれたのは、2001年。著者は非熟練労働者が安井時給で、どのように生計を立てているのか探ろうと、ウェイトレスやレジの仕事に就きます。彼女が体験したのは過酷な世界でした。教育を受け、健康状態も良好で、車を所有し、家賃の最初の1か月分を払える余力があっても、2つの仕事を掛け持ちし、週に7日間働かないと暮らしていけませんでした。それでもあやうくシェルター暮らしになりかけます。貧困が、本人の努力不足などで片付けられるものではなく、社会の構造が変わったことを活写していました。

 振り返れば、トランプ政権の出現を予見させる内容で、名著でした。

 NYTのレポートも、ブレンダという看護師を追うことで、アメリカの労働市場の変化を捉えていました。20年後の労働者も、相変わらずその日を暮らしていくのは大変です。ただし、2001年にはまだなかった、スマホによって大きく変わってしまいました。

 かつて、看護師が足りなくなると、仲介者(ボス) がいて、彼女たちに電話/メールで連絡をしていました。仕事を終えた彼女たちは、ボスのところに行って、小切手を受け取っていたのでした。高い給料ではなかったですが、同じ境遇の看護婦同士で話をする時間もありました。

 そのBossは、看護師をマッチングするサイトを運営するようになり、彼女たちはスマホアプリで仕事を見つけるようになります。仲介者が排除され、顧客と看護師が直接結びつくことになったのです(ボスがアプリで置き換わった)。

 こうした柔軟な働き方は、ライフバランスを取る助けにもなりました。看護師の資格を取るために午前中は勉強に集中し、週末にも働くことは、スマホがない時代には望み得ないことでした。

 しかし、ブレンダは、フルタイムの仕事もしつつ、アプリで副業を探しているのです。家で料理をしながら。新しい働き方なので、税務署の区分にうまくハマらないとか、医療保険等の福利厚生が受けられないというのは、私もよくわかります。

 意地悪な見方をすれば、1990年代に途上国に仕事を奪われた人たちは、2020年代にアプリに(楽な)仕事を奪われてないかと。

 労働経済学者の分析もいいですが、こういう物語にしてくれるライターのレポートもいいですね。こういう変化に的確に対応したいものです。

 では。