野口悠紀雄 東洋経済 2007/11
週刊東洋経済の連載に加筆した本。このブログでも、野口先生のコラムは何度か取り上げましたが、わたしたちの「常識」を経済学の切り口で正してくれます。
第一章で、J.M.ケインズの言葉が引用されています。
“I’d rather be vaguely right than precisely wrong”
経済学では、あまり精密な議論はもともとできず、重要なのは、経済学的なものの考え方だとしています。経済学部を卒業してから、15年が経過し、すっかり経済学的な考え方を忘れていたのがわかりました。たとえば、以下のとおり。
食料品やサービスの価格に関する国際比較を行うと、日本の価格水準は国際的な水準より25%程度は高くなっている。そこで、日本の家計消費支出の4分の1は、農業やサービス・流通業に対する所得補助であると考えることができる。家計消費の額は年間役280兆円であるから、所得補助額は年間約70兆円と考えることができる。p.78
次の選挙では、格差が問題になると思いますが、p.88以降の要素価格均等化定理の話は参考になりました。
景気回復にもかかわらず賃金が上昇しないのは、一時的なものではなく、世界経済の構造変化によるものである。よって、金融緩和による対応は誤りで、事後的な再分配によって解決される。それは、法人税を増やし、所得税を減らす。日本にとって重要なのは、産業構造を高度化することで、金融緩和や円安はそれを妨げかねない。
大企業と中小企業の格差については、
大企業が比較優位の原則に目覚め、いずれかに特化すれば、零細企業に仕事が回ってきて、格差が縮小するだろう。p.204
としています。
今話題の特定財源については、
揮発油税収入は、今後も順調に増加するだろう。その伸び率は、DPの伸び率より高いだろう、他方で、道路整備はほぼ完成の域に達しているので、必要な伸び率はGDPの伸び率より低くて然るべきだろう。したがって、特定財源があると、無駄な支出がなされることになる。p.256
全体としての日本へのメッセージは、以下の文にまとめられています。
今の日本に求められているのは、このような「貿易大国型」、「成長至上型」、「人口増加型」、「ものづくり中心型」の固定観念から脱却し、「債権大国」、「成熟した経済」に必要な能力をつけることだ。
大前さんもそうですが、野口先生も、半ば遺書のような気迫を感じます。まず、自分の頭がそう切り替わっているかなと自問してみるのでした。
では。