両利きの経営

 両利きの経営(Ambidextrous management)とは、組織が効率的だけでなく革新的でなければならないとする経営戦略でした。組織は現在の業務を効果的に実行するだけでなく、将来の成長や変化に対応するための革新的な取り組みも同時に取り組むという。

 日本のような直系家族的な組織にとって、難しいのは、「2つの文化をひとつの組織の中に同居させる」ことではないでしょうか。

 トッドの家族類型の図を見返してみましょう。核家族的な社会は、子供が親と同居しません。権威を認めず、違う文化であっても、同じ国家の中でもどちらが偉いかという争いになりにくいです。

 ローマ帝国が典型で、敵国であっても、植民地になった後には、市民権を与える。文化が違っても平等に扱う大人の対応をしていました。

 一方、直系家族はそれが苦手です。父親から長男に家督を譲るのですから、自ずと血筋へのこだわりが強く、排他的になります。典型的なのは、ナチスでしょう。社長が右と言ったら、全社員右を向くという組織になりがちです。

 思いつきに過ぎませんが、日本企業で長続きしている企業は、2つの相反する文化を組織内に同居させてないでしょうか。

 たとえば、ソニーですね。盛田会長は、第15代久左エ門で、バリバリの直系家族。海軍の文化も残り、幹部会議を「会同」と呼んでましたし、理系の採用は、研究室の先輩がリクルートもしていました。営業会議の販売ノルマの追いかけ方は、他の日本企業と似ていたと思います。

 その一方で「自由闊達にして愉快なる理想工場」という理念を掲げてもいました。核家族的な価値観であり、商品開発では、ユニークな発想が褒められていました。

 背骨は、権威主義的なのに、肋骨は自由主義的だったのが、ソニーが長生きしたひとつの理由なのではないでしょうか。

 長銀は国有化されてしまいましたが、似たところもありました。銀行は、役所と同じく上に言われたとおりに仕事をこなす文化でした。しかし、興銀と同じことをしてたら、食べていけないので、流通業にいち早く融資したり、M&Aに取り組んだり、新しいことに取り組んでいました。バブルが崩壊するまでは、ふたつの文化をひとつの組織の中にあったと思います。

 ロンドンのチャーチル博物館に行った時に、驚いたことが2つありました。ひとつは、同じ保守党なのに、チェンバレンとチャーチルの考え方が全く違ったことです。チェンバレンはナチスに対して宥和政策を主張し、チャーチルは強硬派でした。

 もう一つは、ナチスに勝利した直後の選挙で、保守党が大敗したこと。イギリスという国は、まったく違う文化を政府の中に同時に持っておき、タイミングを見て取り替えたわけです。

 自民党も、宏池会と清和会は、文化が違いますね。それが長持ちの秘訣なのかもしれません。

 直系家族がいかに異文化を排除するかは、コロナのマスクでよくわかったと思います。染まりやすい社員を前提にして、いかの異なる文化を組織に持ち続けるか。日本企業のチャレンジは続きます。