エマニエル・トッド 2020年 PHP新書
インタビュー集ですが、コロナ後の世界情勢を理解するために役立つ本でした。変化の激しい時代にも、人口動態の分析や、家族類型は役立つと確認できました。
冒頭に、この言葉。
民主主義というのは本来、マジョリティである下層部の人々が力を合わせて上層部の特権階級から社会の改善を手にしようというものです。ですから、民主主義は今、機能不全に陥っている。(中略)この機能不全のレベルは教育格差によって決まるのです。
はじめに
民主主義が機能不全になっている理由のひとつが、高等教育の意義の変化にあるとの指摘。かつてのエリートは、社会に対して責任を負っていましたが、大学進学率が上昇することにより、そうした意識は薄れてしまいました。
また、高等教育を受ける人が増えて社会が良くなったかというと、必ずしもそうなりませんでした。
高等教育の機能の一つが社会を階級化し、選別するものになってしまっている。
第1章
いかに自分が従順であり、忍耐強く、そして順応主義者であるかを見せつけるために高等教育を受けるのです。しかし、そうすることで生まれるのは愚か者たちでしかないと言わざるをえません。今、結果的に巧妙な、”反能力主義的システム”が表出してきていると言えるでしょう。
第1章
厳しい指摘が続きます。
今のエリートは「集団エリート」と呼ぶべきものになっています。高等教育を受けた全人口の30%から40%の人々、必ずしも優秀ではない人々が自分たちのことをエリートだと思っているのが現状です。ある種の文化的な集団とも言えます。似た者同士の集まりで、皆が同じような思考を持っています
第3章
と、高学歴者が、内向的になったことを指摘。結果、
社会階級闘争は、教育階級の闘争に取って代わったと言ってよいでしょう。社会グループの相違を観察するのに最も適している変数が今は教育レベルなのです。
第1章
グローバリゼーションについては、自由貿易の恩恵を受ける上層部が、推し進めた施策という立場。今日の大分断のひとつの原因と指摘しています。
世界をこのように俯瞰した後、3つの民主主義を分析していきます。本書では家族類型も単純化され、「フランス・イギリス・アメリカ型」(核家族)、「ドイツ・日本型」(直系家族)、「ロシア型」(共同体家族)の3分類で議論しています。
ドイツ・日本型は、
直系家族構造で、そこでは長男が父を継いでいきます。ここで生まれた基本的な価値観は、自由と平等ではなく、権威の原理と不平等です。両親の代がその下を監視するという意味ではの権威主義と、子供がみな平等に相続をうけるかではないという点から生まれた不平等です。
第3章
英米仏の民主主義を「交代制民主主義」、日独を「階層民主主義」と呼んでいます。
直系家族である日本やドイツは、教育による分断が、英米仏ほどひどくないと分析しています。
たとえば、日本については、序列を尊重する傾向を指摘しています。
東大卒のホワイトカラーと、農家や漁師たちが罵り合いながら対立するというようなことは考えにくいでしょうが、フランスではそれがありうるのです。
第1章
不平等を受け入れる素地が、階級対立を和らげているというのは、皮肉なことではあります。
この社会対立を解消するには、「交渉の道」と「完全なる社会崩壊の道」があるとし、Brexitをエリート層が、下層部との交渉の必要性に気づいた例として挙げています。
第4章では、日本の課題を取り上げています。身分制の日本では、巧妙な形で平等主義が内在化されているとのこと。
馬鹿な人はいても、馬鹿げた仕事はない。
きちんと為された仕事は、それがどんな仕事であれ評価される。それぞれがある身分に属していて、そこで自分の仕事をきちんとこなすという社会。
そのため、日本でポピュリズム(エリート主義を批判することで政治システムに入っていくる政党)がないと指摘しています。
直系家族の問題は、効率的ではありながら、同じことを繰り返してしまうこと。
日本の問題としては、少子化を指摘していました。
欧州にいると、家族類型の違いを実感できるのですが、2020年代の国際情勢を分析する上で有効な視点と思いました。
では。
【参考】