シンガポールとリスキリング

 シンガポールで働いていた時に気がついたことの一つに、「人生の見極めは早ければよいものでもない」があります。

シンガポールの生存戦略「中高年こそリスキリング」 人口と世界 センテニアル・アジア・アドバイザーズCEO マヌ・バスカラン氏 - 日本経済新聞
――シンガポールはどのように生産性を高めてきましたか。「故リー・クアンユー氏が首相だった1980年代から、生産性の向上が必要という議論はあった。しかし、実際には外国人労働者の安価な労働力の受け入れに過度に依存したために、建設や飲食など多くの...

 シンガポールには、小学校卒業試験(Primary School Leaving Examination, PSLE) が重視されており、かつてはこの結果で人生が決まっていました。成績の低い人は、大学にはいかずに手に職をつけなさいという考えで国家が運営されていました。

 工業化時代には、それで良かったのかもしれません。かつてのシンガポール経済を牽引していたのは安い労働力。先進国からの投資を呼び込んで、輸出を伸ばすことで国民の所得が上がりました。

 しかし、私が働いていた職場でも、倉庫にはPCもなく、物流部の社員はメールアドレスも持っていませんでした。かつては伝票に書いてあるところに荷物を運べばよかったのですが、途中でデジタル化が進み、リアルタイムにデータを共有して、顧客サービスをする人になってしまったのです。

 そうなると教育が大変でした。なにせ小学校卒業時に難しいことはやらなくてよいと国家に言われてきました。それから20年後にコンピュータを学び直す(リスキリング)わけです。別途研修を用意し、使い方を教えていきました。シンガポール政府の危機感には、そんな背景もあるのだと思います。

 一方、日本は良くも悪くも平等で、現場の教育水準は高いです。世界で初めてiモードのようなサービスが流行ったのも、電話のキーボードを叩いてコンピューティングできる顧客が数千万人いたからです。

 なので、逆にリスキリングは日本の方が難しいかもしれないですね。学校卒業後の教育は(大)企業に頼りがちで、個人がどうやって学ぶかは課題が多そうです。資格取得は盛んですけど、日本人らしくすぐに国家試験になりがちです。師匠から学ぶ「XX道(どう)」となり、その界隈がむしろ硬直化してしまうという。

 アジアからも学んでいきましょう。