【本】創造的破壊とは何か

今井 賢一 東洋経済 2008/5

シュンペーターを学び直す本。イノベーションをめぐる、学術的なコンセプトを学習することができます。

先日、『熱狂、恐慌、崩壊』をご紹介しましたが、冒頭にキンドルバーガーの言葉が紹介されています。

わたしを悲嘆させていることは、かつて1950年代から1980年いっぱいにかけて輝かしい経済的実績を収めた日本が1990年代になって不調に深くはまりこんでしまい、最近は金融財政政策の古典的な処方によってさえも、かつてのようなダイナミズムを取り戻せなくなってしまったように見えることである。(中略)10年に及ぶ静止の時代-そしてそれは今も居座っている-は、他の何にもまして政治的な行き詰まりのせいであるように思われる。

これはさておき、シュンペーターの創造的破壊については、

創造的破壊という用語は経済学以外でも使われているが、それらの概念は破壊から始まるのに対して、シュンペーターのいう創造的破壊はあくまで創造が先にくるのである。p.10

その上で、クリステンセンについて、簡単にまとめた後、技術革新の歴史を振り返ります。興味深いのが、Douglass North教授の技術革新と人口のチャート。1万年を超える人類の歴史の中でも、世界の人口が1億人を超えて増加し、近代的な機械技術が使われるようになったのは、たかだか数百年前からなのがわかります。

その理由として、Joel Mokyrの仮説を紹介しています。産業革命以前は、偶然や直感による発見であったのが、産業革命以後は、知識(Propositional & Prescriptive)の間にフィードバックが生まれるようになり、爆発的に技術革新が進んだ。

これを踏まえて、General Purpose Technology(GPT)の話に進みます。表1.2 創造的破壊をもたらしたGPTは必見です。日本企業の追い風になったのは、リーン・プロダクション。今後は、インターネット、バイオ、ナノテクとなってます。

第2章では、産業組織を取り上げます。印象に残る言葉はこちら。

産業化(アトムの世界)から情報化(ビットの世界)への単線的な進歩というようなことは、ありえない。両者は競合しつつ相互に浸透しあい、基本的には「二項対立」ではなく「二項同体」として経済システムを深化させていくのである。p.38

現在の産業組織が変わった原因を取引コストの劇的な低下にみながら、「プロジェクト」の歴史的な変遷をみます。

技術革新については、その種が大企業にあり、問題なのは立ち上げ方なのだといています。

成功するベンチャー企業は、ほとんどの場合、大企業の研究所が作り出したアイディアから始めている。p.54 by Gordon E. Moore

このあたりは、先日紹介した” Inside Steve’s Brain“の

Good artists copy. Great artists steal.  by Pablo Ruiz Picasso

に通じるものがあります。

第3章では、日本の選択を取り上げています。世界のITクラスターと日本のクラスターの地図をみていると、地域で何に取り組むべきか、客観的に理解ができます。

というわけで、久々に歯ごたえのある本でした。

では。