【本】失敗の科学

失敗の科学

マシュー・サイド Matthew Syed ディスカヴァー・トゥエンティワン 2016/12

原題、Black Box Thinking。様々な業界の失敗のを分析した本。名作でした。

まずは、失敗に学ぶ業界の代表例、航空業界

1912年当時には、米陸軍パイロットの14人に8人が事故で命を落としていた。p.18

2014年のジェット旅客機の事故率は、

IATA加盟の航空会社に絞れば、830万フライトに1回だ。p.19

一方、医療業界。1999年に米国医学研究所が発表した「人はだれでも間違える」によると、

アメリカでは毎年4万4000〜9万8000人が、回避可能な医療過誤によって死亡しているという。p.19

なのに

 アメリカ国内で実施された、医原性損傷に関する疫学的調査によれば、受診1万件につき、44~66件の深刻な損傷が起こっているという。しかし、アメリカ国内の200以上の病院を対象に調査を行ったところ、上記のデータに見合う損傷数を報告した病院は全体の1%に過ぎなかった。p.30

なぜ、我々は、失敗を隠したがるのかということを本書は丁寧に分析しています。妻を医療事故で失ったパイロットの物語は、2つの業界の失敗に対する姿勢の違いを鮮やかに描いていきます。

 医療業界はこれまで、事故が起こった経緯について日常的なデータ収集をしてこなかったのである。
一方、航空業界では、通常、パイロットは正直に、オープンな姿勢で自分のミスと向き合う。また事故調査のため、強い権限を持つ独立の調査期間が存在する。失敗は特定のパイロットを非難するきっかけにはならない。p.31

このことは、サレンバーガー機長の言葉に集約されています。p.61

我々が身につけたすべての航空知識、すべてのルール、すべての操作技術は、どこかで誰かが命を落としたために学ぶことができたものばかりです。(中略)大きな犠牲を払って、文字通り血の代償として学んだ教訓を、我々は組織全体の知識として、絶やすことなく次の世代に伝えていかなければなりません。

しかし、

 失敗は予想を超えて起こる。p.50

のです。

エリートが陥る「保身の罠」は、p.124。面白かったのが、ペンシルバニア大学の実験。各界の専門家284名に予測をさせた検証。

テレビ番組に多数出演し、本を出せばサイン会を開くような有名な専門家の予測が、一番外れていた。p.125

名経営者が、なぜ失敗するのか?』では、

組織の上層部に行けば行くほど、失敗を認めなくなることが明らかになった

カール・ポパーの言葉 p.130

If we are uncritical we shall always find what we want: we shall look for, and find, confirmations, and we shall look away from, and not see, whatever might be dangerous to our pet theories. In this way it is only too easy to obtain what appears to be overwhelming evidence in favor of a theory which, if approached critically, would have been refuted.

第5章では、それでも収まらない犯人探しを論じています。プロジェクトの非難6段階。

  1. 期待
  2. 幻滅
  3. パニック
  4. 犯人探し
  5. 無実の人を処罰
  6. 無関係な人を報奨

笑えませんね。

失敗からの学び方についても、具体例が紹介されています。アメリカ軍が、爆撃機の機体についてした調査の例p.54。攻撃を受けた機体の調査から、軍は機体部分に装甲をほどこせばよいと判断しましたが、実際に強化すべきだったのは、コックピットと尾翼。なぜなら、そこを銃撃された爆撃機は帰還できず、サンプルに入っていなかったためでした。

トヨタから学んだ病院もあります。p.71

トヨタでは組立ラインでミスや問題が起こると、作業員が直ちに非常停止用コードを引っ張って、ラインを一時停止させる。

これを病院で失敗が起こった時にも、適用したのだとか。

最後にポパーの言葉

True ignorance is not the absence of knowledge, but the refusal to acquire it.

では。