市場リスク 暴落は必然か
A Demon of our own Design:markets,Hedge Funds,and the Perils of Financial Innovation
Richard Bookstaber 日経BP 2008/5
MITで博士号を取得した後にウォール街に転じた著者によるリスク管理論。金融システムが密結合(tight coupling)になっているため、規制を強化することが返ってシステムを不安定にすると主張しています。
守秘義務契約は大丈夫かと心配するほど、実名を挙げながら金融機関の内情を描写する一方、MIT出身者らしく、金融市場について学際的な見方を提供しています。
損失が出ているポジションを修正することを阻む修正、もっと具体的にいうなら、予想外のところから生じる損失に直面したときの感性である。実験生物学では、こうした現象を「実験神経症」と呼ぶ。実験室の動物は、これまでに経験したことのない道の環境や出来事にぶつかると、ボールのようにただ身体を丸めて、刺激を完全に無視するようになる。p.129
LTCMのロシア債の話は、他の本にも出てきますが、印象的なのはこちらの比喩。
東南アジアでは、サル狩りの猟師は、小さな木の箱を杭で地面に打ち付けて罠をつくる。木箱には、サルが手をすべりこませるには十分な大きさのアナが開けてある。箱のなかにはライチの実が置かれている。猟師が実を隠して待っていると、サルが箱に近づいて、珍重されるライチの実に手を伸ばす。そこで猟師が網を手に須川をあらわすと、サルはキーキーと泣き喚き、箱からライチの実をひっぱり出して逃げようとする。サルがすべきことはただ一つ、握っているライチの実を放すことだ。p.178
著者が主張する規制の罠は、こちら。
市場が機能停止に陥ると、当然ながら、保護と規制の階層を暑くするという動きが起こる。しかし、複雑性にからめとられている市場を規制しようとすると、意図せぬ弊害をもたらすおそれがある。安全装置を加えることで複雑性がさらに増し、それがさらなる機能不全を誘発して、機器を沈静化するどころか、逆に増幅しかねないためだ。p.248
その対策としては、システムを疎結合(モジュール化)することを勧めています。ゴキブリの防御システムが紹介されています。
ゴキブリの防御機構は、空気のわずかな揺らぎから離れること、ただそれだけである。(中略)防御反応は脳を通る必要がなく、空気の動きを感知する感覚子から直接、足の動きをコントロールする胸部神経節に伝わるようになっている。p.384
09年は、ゴキブリから学ぶということで。
では。