森本 あんり 新潮選書 2015/2
ICU副学長によるアメリカにおけるキリスト教の解説本。トランプ旋風の背景を知るための好著。”anti-intellectualism”は、アメリカ合衆国の政治史家Richard Hofstadterが、”Anti-Intellectualism in American Life” (1963)で使った言葉。
反知性主義は、知性ではなく、「既存の知性」に対する反逆。知性そのものではなく、「今、主流になっている知性や理論を乗り越えて次に進む」という、別の知性。
ただでさえ縁遠い、キリスト教。その宗派の歴史を丁寧の追わなければ理解できないので、我慢が必要です。初期条件としては、ピューリタンとしてアメリカに渡ってきた人は高学歴でした。まだ、生活も不安定なのに、彼らが最初にしたことは、牧師を再生産する仕組みを作ること。ハーバード、イェール、プリンストン大学(当時は神学校)を作りました。
カトリックのアンチテーゼとして出てきたプロテスタント。その中でも急進的な清教徒は、中世がないアメリカに広がった時に、体制側になってしまうのでした。
新しい宗教は、主流(チャーチ)の分派(セクト)として出発する。しかし、やがてセクトが主流になり、自分がチャーチになってしまうのでした。
アメリカでこれを批判したのが、リバイバリズム(信仰復興運動)。信仰に学歴は不要と出張します。
「神は福音の真理を『知恵のある者や賢い者』ではなく『幼な子』にあらわされる、と聖書に書いてある(「マタイによる福音書」11章25節)。あなたがたには学問はあるかもしれないが、信仰は教育のあるなしに左右されない。まさにあなたがたのような人こそ、イエスが批判した『学者パリサイ人のたぐい』ではないか。」――これが、反知性主義の決めぜりふである。 p.85
興味深いのは、ミュンスターの惨劇(P.107)。
指導者たちはここが聖書に予言された新しいエルサレムであると宣言し、終末が近づいているので、市民はすべて再洗礼を受けるか処刑されるかのどちらかを選択せよ、と迫った。さらに彼らは、新約聖書に記されている一部の言葉に従って、私有財産を没収して平等に分配し、女性には一夫多妻制を矯正した。
新たな秩序を必要とする時に、宗教は先鋭化するという意味で、今のISILを見ているようです。
アメリカでは、セクトを是認し、異論を受け入れることが社会システムに組み込まれました。アメリカの政教分離は、政治から宗教を遠ざける仕組みではありません。宗教のセクトがそれぞれ政治から干渉されず、自らの信仰を追求するための制度です。この権威に対する反発が、連邦制(中央政府への不信感)につながっているのだと。
アメリカを理解するには、細かくセクトを見ていかないとダメですね。それは、中東情勢を分析する時に、イスラム教とひとくくりにしてはダメで、スンニ派、シーア派、アラウィー派といったセクトの動きを読まなければならないのに似ています。
では。
参考
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150422/280276/?rt=nocnt