【本】金融規制のグランドデザイン

金融規制のグランドデザイン
ヴィラル V.アチャリア, マシュー・リチャードソン  中央経済社 2011/2

2008年金融危機のStern Report。失敗が起こった時に、その原因に真摯に取り組み、役割分担をして報告書をまとめ、議論を経た上で提言書とする。アメリカ人のこの能力に敬意を表する。太平洋戦争初期にアメリカが見せた「失敗に学ぶ」姿勢はいまだに健在でした。

 私が学ぶのは、このWhite Paperが行われた時期(2008年末)が時を得ていること、全体のボリュームが適切であること、各章の配分のバランスがとれていること、しかも、各章の担当者に恵まれていることです。そういえば、日本の経済白書は読まなくなってしまいました。
 本書の問題意識は、下記の通り。

信用ブームと住宅バブルの複合産物が金融危機の根本的な原因であったこということは、ほとんど衆目の一致するところであろう。しかしながら、この複合の産物が、なぜこの産物が、なぜこのような深刻な危機をもたらしたかについては、まったくといっていいほど明らかでない。p.73

 以下、様々な面からの検証が行われていますが、とても率直というよりもむしろ厳しい批判になっています。Sternはウォール街への人材供給を担ってきたMBAです。半ば、自分たちが金融危機の片棒(一部という意味)を担いだことになります。リーマン・ショックから3ヶ月後に、これほど率直に批判ができるというのは、文化の違いなのでしょうか。原発事故から3ヶ月後に東京大学大学院工学研究科原子力専攻が総力を結集して事故を総括し、5ヶ月後にWhite Paperを出版するようなものです。いま、ちょうど5ヶ月経ちましたね。
 本書の率直さは、従業員の報酬に対する批判にも表れています。

 もう一つの側面が、金融機関内の社内政治であり、「一番稼いだ者が一番偉い」という考え方が、リスクとリターンのデリケートなバランスを崩す原因となってしまったのだ。
 過去25年の間、金融業界の利益は米国企業全体の10%から40%にまで成長し、米国の上場会社に占める金融界の時価総額の割合は6%から22%に拡大した。(中略)2002年から2007年の間、投資銀行および金融コングロマリット内の投資銀行部門の総収入に占める人件費の割合は31%から60%に上昇していた。

 同じ例でいえば、東大同専攻の専門家が、自らあるいは先輩の報酬・待遇についてこれほど率直に反省す報告書を事故5ヶ月後に出すというとこでしょうか。
 他にも、格付機関、金融当局、ヘッジファンド、会計制度など幅広い論点をカバーしています。金融機関の人に参考になるだけでなく、事故調査報告書を書くような人にも参考になるのではないでしょうか。