日本の医療制度
長坂健二郎 東洋経済 2010/6
私の知る限り、これほど総合的な視野の下でこれほど具体的な解決策の提案は前例がない。
と島田晴雄先生がおっしゃていますが、そのとおりです。
私の目には、日銀の名作「わが国の金融制度」の医療版のように思えました。戦略的な見方は、「医療戦略の本質」、現在の具体的な取り組みについては「医療政策」入門 、現場の様子は、「現場が変える日本の医療」とすれば、本書は製薬会社の経営者という経験を、同じ国家統制産業(金融・医療)をどう変革するかという視点で書いていると思いました。
金融関係の本の良いところは、まず、制度ありきと思っているフシがあり、目次が完結すること。世の中複雑な問題でも、結局200ページぐらいでポイントを描かないと、理解していただけません。それができている。しかも、きちんと構成で読ませるようになっている。このへんも、「わが国の金融制度」に似ていますね。教科書として使える。
ただ、本書の志は高く、診療報酬の自由化を打ち出しています。単に市場の効率性を信じているというようなレベルではなく、国家統制というものの限界を知っているからこそ、自身を持って「処方せん」を示せているのだと思いました。
たとえば、銀行業界の発展は、決済制度の共通化にありました。プロトコールを共通にして、全国どこのATMでも資金の出し入れができるようにしてきました。p.72では医療業界の問題として、こんなことが指摘されています。
最大の問題は診断名が統一されておらず、したがってWHOの病名コードが使えないことである。
事務処理のコンピュータ化の遅れはp.50で指摘されています。その賃金の節約見込みを560億円(p.52)を見積もっています。薬価決定方式については、
世界に類を見ない完全統制主義であり、このことが製薬業をはじめとする関係各方面にさまざまな歪みをもたらしている。p.80
と指摘しています。これも、金利が統制されていた銀行からしてみれば、懐かしい風景。
また、新薬の承認が他国に比べて遅いことを指摘(p.111)。他国の製薬メーカーでは、本社を移転さすところもあるなか、日本の製薬メーカーが踏みとどまっているのは、やはり、直系家族の文化のなすわざなのでしょうか。
「ではの守」については、スウェーデンが高コストを受容するまでに並大抵でない努力をしてきたことを指摘。一夜にして日本に導入できないことを示唆しています。(p.161以降)
事実、無保険者問題は、アメリカの専売特許ではなく、日本の全人工の7.4%が、無保険者ないし、それになりつつあることを指摘しています。p.145
日本の医療制度が深刻な状況にあるのが、一般人の私にも理解できましたし、解決策の要諦は、モラルハザードを起こさない(許さない)ということも理解できました。同じ規制業種であった、金融界が協力できる分野は数多いのではないでしょうか。
では。
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