世界像革命
エマニュエル・トッド 藤原書店 2001
2001年トッド来日時の活動に触発された議論集。Global HRMが、中小企業レベルでも重要になってきています。国をまたいだマネジメントを考える時に、文化の理解は不可欠で、トッドのフレームワークは多いに役立つと思います。
第一部の「トッド人類学の基礎」は、トッドの基本的な考え方を端的に解説しており、経営者におすすめです。p.32の地図を頭に入れておくと、大きな失敗がなくなるでしょう。
最近のユーロ危機との関係で興味深いのは、p.118 「マーストリヒト条約への懐疑」
マーストリヒト条約に対する私の批判の80%は、プラグマティズムによるものでした。これだけ多様な風俗習慣をもち、これだけ異なる経済のやり方をしているこの多様な大陸に、ひとつの統一通貨を導入するのは、合理的ではないという意味でした。
家族類型の分析からソ連崩壊を予言した同氏のコメントは看過できません。家族構造の分析から移民差別を説明する下りを、ユーロにかかわる経営者は、読んでおくといいと思います。
家族類型の分析は、多国籍企業だけが役立つのではありません。日本国だけをとっても、各地域別に家族類型のフレームワークを当てはめることができます。
第3部の「家族構造から見る新しい『日本』像」では、速水融教授との対談が収められています。家族形態を通した日本社会の分析が興味深いものでした。地図1「明治14年軍区別平均世帯規模」p.151を見ると、東北日本の平均世帯規模が7人以上であるのに、中央日本では5人以下となっています。薩長土肥の平均世帯数も少ないですね。
速水教授の説からは、さまざまな想像が膨らみます。
末子相続は中央から西南日本。東の端っこは信州諏訪です。p.168
ものづくりのクラスターは、核家族の自由な発想と直系家族の勤勉さが出会ったところにできたのではないでしょうか。諏訪にはそういう素地があり、精密機械の集積地となった。東大阪、大田区は、核家族の素地があり、高度成長期の都市部への移動によって、東北・北陸地方の直系家族の勤勉さが持ち込まれた。核家族だけの地域や、直系家族だけの地域では、ものづくりがクラスターにまで成長してませんね。前者の例では土佐の和紙、後者は、鯖江の眼鏡、金沢箔、輪島漆、高岡銅器、燕の洋食器、南部鉄器が思い浮かびます。
また、同教授の西南日本の仮説も面白いです。
(西南日本は)共同家族形態をとる場合が多く、兄弟や傍系の親族が同居している場合が多いのです。(中略)西南日本はいまはもう4つか5つの国に別れて、言葉も法律もそれぞれ違ってしまったけれど、当初の時期は一つの文化圏だったろう、というのが私の仮説です。済州島、九州、琉球、台湾、南中国の沿海です。p.166
普天間の問題も全く違った角度から見れるようにもなりますね。
では。
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