國重 惇史 講談社 2016/10
異様な本。しかし、私の年代は、この本から目をそむけてはいけないのだと思います。
まずは、「メモと注釈」 多くの人は、違和感を感じると思います。しかし、私は、銀行が年末に配っていた黒い手帳を思い出しました。メモ取りこそが銀行員の基本動作でした。この様式が25年前に私を連れ戻してくれるのでした。
私が新人として配属された時の支店長が昭和43年入行。著者と同期だったことになります。日本がGNPで世界第2位になった年に入行し、22年金融界で働いてきた世代です。
MOF担は、これまでいろいろ聞いてきましたが、その動きが、実名でこれほど詳細に語られている本書は圧巻です。ここまで政治的な動きをいていたのかと驚きました。圧倒的な情報量なので、1度通読しただけでは、消化しきれません。いくつか感想です。
第1は、金融は制度設計ということ。25年前の私が最も理解していなかった点。当時の私は、金融はサービス業のひとつと単純に理解していました。しかし、本書の背景にあるのは、当時最低水準に据え置かれていた政策金利と、不動産融資規制であるのがわかります。その窓口であったMOF担に大きな力があったのがよくわかりました。
第2は、日本企業のガバナンス。直系家族的な組織の行動のよいサンプルを見つけました。欧米の企業であれば、代表取締役の交代時に出てくるはずの株主の姿はどこにもなく、従業員の下克上と、大蔵省、政治家、メディアが460ページに渡って描かれています。経営戦略、業績、KPIなんて言葉もなく、「権威」をめぐる戦いの物語になっています。
第3が、エリートの変質。本書に登場する人物は、銀行、大蔵省、新聞社、にしても、受験戦争を勝ち抜いた人ばかり。各人、それぞれの持ち場で戦っているのですが、『粗にして野だが卑ではない』で描かれているようなパブリックな心がどこにも感じられません。そういう風に書いてあるとも言えるのですが、80年代に日本の指導層の考え方が変わったことが伝わってきました。
私の同期が、入行26年目に入り、同じような年代に入っていることは、感慨深いです。読後感は、やっぱり、悪いですね。半沢直樹が、可愛く思えます。
では。