出井伸之多様性への挑戦
五百旗頭 真 朝日新聞社 2007/6
雑誌『論座』のシリーズ「証言90年代」をまとめたもの。出井さんは、ソニーの会長を辞められてから、企業/産業アナリストとしての眼が冴えてきています。
このインタビューで90年代が浮かび上がったかはさておき、2020年を見据えた日本産業界の方向性を示すことができる数少ない社長経験者であることは、よくわかりました。
ソニーのインサイダーストーリーは、以前ご紹介した『迷いと決断』の方が、よく書けているので、日本の産業戦略について触れたところをいくつかご紹介します。
アメリカ式金融資本主義の考え方と、日本の産業資本主義的な考え方というのは、ある意味では対極にありましたが、今は少しずつ近くなっている。日本は、産業資本型から金融資本型へと移行する過渡期にあると言えるでしょう。P.165
日本は戦後、自分の立場をもういっぺん立て直すことに必死になっていただけで、ちょっと古い技術の工業化で世界を制したかに見えてますけど、自分でキャピタリズムを作ったことは一度もないんですよ。P.167
出井さんの取り組みは、3つの掛け算(p.177)。
1.30代経営者xとシニア経営者
2.東アジアx日本
強調と競争
3.産業資本 x 金融資本
現状では大企業が資金調達をしようとしても、ゴルフで言えば、ゴルフバックの中に14本あるクラブの中に「ファンド」というクラブがないんですよ。それどころか、銀行から借りるか株式市場から調達するという2本きりで勝負しているところが多い。
出井さんのゴールは、
会社を売り買いしているだけでは、価値を生み出したことにはならない。事業の新になるものを持っているかいないかです。価値を「つくる」ことを知っている経営者を育てないと、日本主導の新しい価値は生まれません。p178
具体的には、次世代の競争戦略を考えた新しい官と民のパートナーシップ(Public Private Partnership)を提唱します。
このあいだ、知り合いのアメリカ人がこう言っていました。「軍隊には陸・海・空がある。先発の空軍は先人攻略するので、海軍がが航空母艦を有して次に出て行き、最後には陸軍が赴く。陸軍がいちばん保守的なのはそのせいだ。会社にも先行部隊、ベンチャー的な働きをするところ、バックオフィスに関心が高いところ、大きな規模の事業をうまくやるところ、といった具合に陸・海・空がある。ちなみに、日本のエレクトロニクス産業は陸軍ばっかりだね」p.184
半導体については、意外に思い入れが強いですね(P.185参照)。日本は、やっぱり技術ですか。解題の伊藤元重先生が引用した言葉につながると思いました。
政治はカネや銅鑼を鳴らして”改革だ、変革だ”と大騒ぎするが、結局社会を大きく変えることは少ない。経済や技術の変化は静かに社会に浸透していくが、しばらくたって振り返ると社会を大きく変えている。