空気と戦争
猪瀬 直樹 文春新書 583 2007/7
東京都副知事に就任した猪瀬氏による東工大での講義「日本の近代」を再現した本。元ネタは、同氏がに執筆した『日本人はなぜ戦争をしたか―昭和16年夏の敗戦』1991年にCXでドラマにもなりました。
開戦直前の昭和16年、官庁、 軍、民間の優秀な若者が、総力戦研究所へ召集されました。ミッションは、戦争のシミュレーション。彼らは模擬内閣を組閣。出身母体から、重要データを持ち寄り、その後の日本の運命を予測します。資源のボトルネックによって持久戦に耐えられないこと。資源のボトルネックは、供給元不足というよりも、ロジスティックスにあること。最終的にはソ連が参戦し、日本は必ず敗北するなど、今振り返っても驚くほどの精度で的中させています。
この結果は、当時の近衛内閣に報告されますが、内閣の決断は、みなさんご存知のとおりでした。P.79で原田少佐と高橋中尉の会話が紹介されています。
「君は本当にやったほうがいいと思っているのかね。いいかい、ここでやけっぱちでことを構えたら、満州はもちろんのこと、朝鮮も台湾もなくしちゃうことになるんだよ。この際ひとつ我慢をすれば、満州は駄目だが、朝鮮と台湾はうまくいけば残るよ。そのところが、もし君にわからないとしたら、それは少佐と中尉の差だな」
「そんなことを言うから皆に、整備局のやつらは物ばかりいじくっているから軍神をどこかに忘れてしまっているんだ、なんていわれるんじゃないですか」
「だから危ないんだよ。そういう雰囲気が、ますます危ない方向へ国を引っ張っていくんだ」
「しかし、今ここで引っ込んだら、国民が黙っていないんじゃありませんか?」
「大政治家というものは、正しいと自分で信じた場合、国民など黙らしてもその方向へ引っ張っていくものなんだ。その代わり、自分も永遠に黙らされることを覚悟の上でね」
「そんな大政治家いますかね」
「いないね。昔はいたらしいがね」
「するとどうなるんですか」
「結局、戦争をすることになるさ。そして敗けるんだよ」
一人一人は優秀でも、年をとると組織のしがらみや時代の空気に縛られて、正しい判断ができなくなる。客観的であるはずのデータですら、変わってきてしまう。
P.170以降に道路公団をめぐるやりとりが紹介されています。本書で書かれたことは、戦前の特殊な状況下でのみ起こることではなく、今現在も起こりうることだということが、よくわかります。
MBA的に言うと、Group Thinking(集団思考)ですね。心理学でいうと「同調行動」で、P.182でアッシュの実験が紹介されています。乙が間違った答えだと思っていても、3人が乙といえば、自分も同調してしまう。その対策は、P.188に書かれているこの言葉に集約されると思います。
「同調圧力」に屈しないためには、「自分探し」などというヤワなものに捉われずに、技術者という自分の役割の中で自分にできることはなにかを「事実」にもとづいて、倫理とデータで考えていくことだ。
では(^^)/^
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