【本】ヘッジホッグ

ヘッジホッグ―アブない金融錬金術師たちヘッジホッグ(Hedgehogging)
バートン・ビッグス 日経 2007/1

 モルスタのストラテジストとして君臨したBarton Biggs氏によるファンド業界の本。サブプライム・ローンバブルでゆれる金融界の裏側に思いをはせるには、うってつけの本でした。


ウォール街(特別編) 基本的なトーンは、「ウォール街(特別編)」で描かれた世界と変わらないのですが、老練なBarton Biggs氏の筆によって、深みのある物語になっています。
 この世界にいる人は、ポジション・トークに偏りがちですが、同氏は、石油相場を巡る自分の失敗などを率直に語っています。
 バブルをめぐる議論の中で、日本の阿波踊りのお囃子を引用していますね。

 踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損。

 なるほど、バブルの本質は、阿波踊りに通じていましたか。バブルを起こす市場についての著者の考えはこちら。

市場はもともと非効率的なものだし、今後もずっとそうだ。人間の本性、すなわち恐れと欲や、群れで投資しようとする本能があるためである。セス・クラーマンがこんなことを言っている。「人は、意識的に感情で投資することを選ぶのではない。単に、そうせずにはいられないのである」

 第13章では、インターネットバブルをめぐる議論が紹介されています。インターネットとエアコンとどちらが画期的な発明かは、面白いテーマ設定だと思います(p.249)
 アメリカの住宅市場についての著者の考えは、P.348参照(2005年時点の予測ですが)。日本のバブルと比較しています。 

銀行から借り入れを元手に膨らんだ非生産的資産のバブルがはじけると、必然的にデフレと不況が起きる。1990年代のハイテク・バブルは、非常に生産的な資産のバブルで、資金は銀行システムではなく株式や債券で調達されたから、その余波は比較的小さかった。(中略)対照的に1980年代の日本のバブルは非生産的な資産(財テク、土地、ゴルフコース、芸術品など)のバブルで、資金は銀行システムから出ていた。だから結果はずっと深刻だった。

 バブルの総括は、この言葉につきますね。
 
 過去に生きては片目を失い、過去を忘れては両目を失う
 (ロシアの古いことわざ P.250)

 そうした酸いも甘いもかみ分けた人の結論が、こちら。

私の考えでは、お金の運用は、単独で、それも完全に一人でやるのが正しいという議論は強力であるように思う。特定の資本についてすべての責任を完全に一人で負うのである。そういうやり方の不利な点は、精神面でのストレスが大きく、孤独であることだが、結局、意思決定というのは個人が行うものである。P.240

 さすが大物だけあって、有名人の言葉が出てきます。

 勘定の起伏の激しいミスター・マーケットという人と二人で会社をやっているとしよう。ときどき、ミスター・マーケットは自分たちの会社に影響を与える要因のうちのいいものばかりを見て会社の先行きに楽観的になり、あなたのところへやってきてバカバカしいほど高い値段を示し、あなたの持分を買いたいと言う。もちろん、あなたは売るべきである。
 別のときには、会社の問題点ばかりを見て深く落ち込み、やけになって、本質的価値を大きく下回る価格を示し、自分の持分を買って欲しいと言う。そういうことなら、あなたは買うべきである。P.
43 (バフェット氏の言葉として)

 
 テロによる先生は自由の息吹には勝てないのですよ
 (P.111 サッチャー元首相)
 株式投資については、以前ジェレミー・シーゲル氏の本を紹介しました。株式投資の利回りの高さを歴史をさかのぼって説明していました。
 

非常に長い期間なら、確かに株式は債券や短期金利を大きく上回るリターンを提供してきた。しかし、5年、10年、15年といった短い期間で見ると、株式のリターンの方が低かったことは何度もある。そんなときに一時的にお金が必要になればとても痛い思いをすることになる。株式市場が1929年の高値を抜くのに15年、債権投資のリターンを上回るのに21年かかった。p.248

 もちろん、こういう高尚な話ではなく、実践で役立つノウハウも紹介してくれています。 

私たちはポジションが10%の損になった場合、社内外の情報源を活用してファンダメンタルズを徹底的に体系的に調べなおすと決めている。そうやって何も変わっていないのを確認するのだ。再検討を行って、株価以外には何も変わっていないならば、ポジションを積み増ししなければならない。自信がなければ、少なくともポジションの半分を手仕舞わなければならない。P.267

 調査マンらしく情報収集の心得も紹介してくれています。
 

生まれてこの方出会った中で、幅広い分野についてよく知っている人は皆四六時中読み物をしていた。例外はない。(中略)ウォーレンがどんなにたくさん知ったら驚くだろう。P.268 W.バフェットの相棒、マンガー氏のインタビュー

 具体的な読書術は、こちら
 日々受け取る書類のうち、90%は私にとってはゴミだ。中略、ちょっとは呼んでみないと必要な10%を残りの90%からより分けることができないことだ。どんなに賢い秘書を雇っても、私の変わりにその作業をやらせることはできない。本当に新しい最先端の考え方が書いてあるレポートを見つけたときは、時間を取ってじっくり読む。P.271

 というわけで、非常に奥が深い本ですね。日本人は、職人の話が好きですけど、運用の職人の話は素直に聞けないところがありますね。どうして、どうして、やっぱり、一流の職人さんの話は、深みが違います。

では。