ウェブ人間論
梅田 望夫, 平野 啓一郎 新潮社 2006/12
『ウェブ進化論』の梅田さんと、芥川賞作家平野さんの対談。月刊新潮6?7月号に掲載された原稿が中心になっていますが、新書として新たに読む価値のある内容でした。
まず、梅田さんの相手が、75年生まれの作家であることが、興味深いです。梅田さんの発信した電波に、もっとも敏感に反応したアンテナが、将棋の羽生さんだったり、平野さんだったりするんですね。(スポーツ選手からの反応は、あったでしょうか?)
梅田さんの描いているのは、デジタルな世界のはずなのに、アナログであるはずの作家と対談することで、『ウェブ進化論』で説明したかったことが、クッキリと浮かび上がるのも、面白いところです。
たとえば、梅田さんは、SEOを念頭に自書のタイトルを決めています。『シリコンバレー精神』と検索して、Googleに1位表示できると踏んで、題名を決定しました。梅田さんは、自著に対する1万ものトラックバック(感想)を読んで、さらに発想を膨らましていきます。
一方、平野さんは、昔は、図書館を使って情報を収集したり、パリに住んだりして、作品を作っていたですが、ネットを徐々に取り入れて、さらに深いリサーチを実現しています。
著作権に対する二人の考えの違いも興味深いです。楽観的な梅田さんと、作家である平野さんの猜疑。ネット上のコンテンツ流通という同じ現象を見ているのに、これだけ考え方が違う。ソニーでの議論を思い出しますね。この差を埋める「通訳」が組織の中にいるかが、さまざまな企業の成否を分けるようになりそうです。
そういえば、二人は初対面?のはずなのに、本になるほど密度の高い対談をするのも面白いですね。ブログなどを通じてここ数年で発達したコミュニケーションの成果だと思いました。住んでいるところも、活動のフィールドも違う二人が、お互いを知り、引き合うようになる。とっても、Web 2.0っぽいかと。
羽生さんの「インプットの質が良くなったんだから、当たり前じゃないかですか」というコメント(P.171)も、いいですね。梅田さんが、45歳を超えても、頭がよくなるかもしれないと漠然と思ったときの回答です。これまでは、ネット側に蓄積される知識のレベルが上がることばかり考えていましたが、今後は、その結果として人間の脳がどう変化するかにも注目ですね。
では(^^)/^