フラット化する世界(上)
トーマス・フリードマン 日経 2006/5
ピュリツアー賞を3度受賞したジャーナリストが描く、グローバル経済の本。世界経済がどのように結び付いているかを描いた本は、たくさんありますが、筆者は、実に綿密な取材しています。Google、ウォルマート、UPSなどが描かれています。ソニーの出井元会長のコメントもありますね。
フラット化の要因は、以下の10項目。
1 ベルリンの壁の崩壊
2 インターネットの普及
3 共同作業を可能にした新しいソフトウェア
4 アップローディング
5 アウトソーシング(インドの目覚め)
6 オフショアリング(中国のWTO加盟)
7 サプライチェーン(ウォルマート)
8 インソーシング(UPS)
9 インフォーミング(グーグル)
10 ステロイド
印象に残るエピソードは、P.45のインドノコールセンターの下りです。英語を話せるのは、当たり前なので、インド訛りを矯正して、アメリカ、カナダ、イギリスの英語らしく聞こえるようにするんだそうです。たとえば、アメリカ中西部の英語では、tや巻き舌のrを弱める発音の練習をする。
”Betty bought a bit of better butter.”
“Insert a quater in the meter.”
小学生から英語を学ばせるか議論している国とは、違います。
また、今のグローバル経済をマルクスとエンゲルスが、『共産党宣言』(1848年)で予見しているのは、驚きでした(P.330)。
生産物を売るための市場をたえず拡大する必要に迫られて、ブルジョアは地球上をせわしなく駆けめぐる。あらゆる場所で家庭を作り、定住し、つながりを結ぶ。ブルジョアの世界市場開拓によって、生産物と各国での消費には、全世界共通の特徴が備わる。(中略)古くから確立していたその国に固有の産業は、とうに滅ぼされたか、あるいは徐々に滅ぼされようとしている。そうした産業を駆逐した新しい産業の導入が、すべての文明国の死活を左右する。新しい産業では、国産の原料ではなく、遠隔地の原料を加工する。生産物は国内で消費されるのではなく、地球のあらゆる場所で消費される。昔はさまざまな欲求を国内生産だけで満たしていたが、いまは遠い国や地方の生産物生産物によって欲求を満たすことが求められる。かつては地方や九にが閉じこもって自給自足していたが、いまはあらゆる方面と交流し、世界各国が相互依存している。物質ばかりではなく、知的生産物の面でも同じである。一つの国の知的創造が、共通の財産になる。国家が変更したり狭い考えを持つことは、いよいよ難しくなり、無数の国や地方の文芸から、一つの世界文芸が生まれる。
生産のためのあらゆる道具が急激に改良され、交通手段が飛躍的に便利になると、ブルジョアはきわめて未開に近い国までひっくりめて、あらゆる国を文明社会に取り込もうとする。商品価格の安さは、万里の長城をも打ち壊すことのできる巨大な大砲に匹敵する威力がある。
こういう「空気」を読めない会社には、厳しい時代になりました。
では。