ウェブ進化論
梅田 望夫 ちくま書房 2006/2
“My Life Between Silicon Valley and Japan”を書いている梅田望夫さんの最新作。インターネット、チープ革命、オープンソースを次の10年の三大潮流(P.29)とし、大きな変化は、むしろこれから起こると予言しています。目次は、以下のとおり。
序章 ウェブ社会
第1章「革命」であることの真の意味
第2章 グーグル
第3章 ロングテールとWeb2.0
第4章 ブログと総表現社会
第5章 オープンソース現象とマス・コラボレーション
第6章 ウェブ進化は世代交代によって
終章 脱エスタブリッシュメントへの旅立ち
いま、こういう本を書くと、Googleを語ることになりますね。P.81にグーグル第1号社員のグーグルスタイン氏のスピーチが紹介されています。
グーグルが目指すゴールは「抜群に優秀な連中を集め、創造的で自由な環境を用意する。ただし情報を徹底的に全員で共有した上で、小さな組織ユニットをたくさん作り、個々がスピード最重視で動き、結果として組織内で激しい競争を引き起こす」というワーキング・カルチャーだとシルバースタイン氏は語った。
アイディアは全社員から集め、すべてのアイディアを全員で共有する。ネット上で議論を尽くして優先順位を決めたら、小さな組織ユニットで全力疾走する。サービスの機能設計、プログラム開発、テストから市場へのサービス投入まで平均3人の小組織ユニットでやってしまう。しかし小さな組織ユニットが壁を作って競争すると非効率になるから、ありとあらゆる情報を全員で共有する。
このプロセスを成功させるのは、採用とテクノロジーとの割り切り。「凄く頭のいい優秀な連中というのは皆、自分を管理できるのだ」というプリンシパルが、Googleの強さですね。
一方、P.92では、Yahooと比較しています。
「テクノロジーの重要性は正しく理解して手を打つけれどその本質はメディア企業」というのがヤフーの在り様で、(中略) 何につけ「人間の介在」を、重要な付加価値創出の源泉だと認識している。
一方、グーグルは、テクノロジー企業なので、「人間の介在」を極力回避する。両者の違いがハッキリ見えてくるのは、映像コンテンツで衝突したときで、Yahooが、コンテンツのスーパー・ディストリビューターを目指すのに対し、グーグルはまったく新しいテクノロジー・ソリューションを編み出す。
また、P.210では将棋の羽生名人との会話から、ネットの将来について面白い予測をしています。羽生名人いわく
「ITとネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」
つまり、将棋が強くなるノウハウはネットで簡単にアクセスできるようになり、強敵ともネットで対戦できる。なので、「ある程度」までは一気に強くなる。しかし、「ある程度」に達すると、その一群を抜け出せなくなる。
「大渋滞を抜けるためには何が必要なのか」は、まさに「人間の能力の深淵」に関わる難問なのだそうです。
ビジネスでいえば、こんなことでしょうか。ソニーに就職したのに、ソニーミュージックに出向になった。必死で勉強(ネットで検索)すれば、昔に比べればずっと早く音楽関係の知識を得ることができるが、その人がヒットを生み出せるかは別問題。同じようなことがいろんなところで起きてそうですね。ネットを極めると、結局「人間力」が問われるのは、面白いところです。
そして、あとがき(P.246)で、梅田さんは、日本社会を心配してこう述べています。
シリコンバレーにあって日本にないもの。それは、若い世代の創造性や果敢な行動を刺激する「オプティミズムに支えられたビジョン」である。
(中略)
「ネットの意義を漠然とは理解しているが自分ではあまり使っていない。しかし知識欲は旺盛で、きちんと説明すれば新しい事象を理解し、その意味を考えることができる程度には十分に知的である」
よくも悪くも、年功序列社会が用意に崩れない日本では、こういうタイプの大人たちが、依然としてあらゆる場所で力を握っている。
最近では、格差社会についての報道が増えてきていますが、むしろ、目を向けるべきなのは、こちらなのかもしれません。
では(^^)/^
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