白洲次郎 北康利 講談社 2005/8
吉田首相の側近として活躍した白州次郎の本。敗戦という極限状態にありながらGHQに立ち向かう度量、将来を予見して通産省を創設した慧眼に、驚きました。自らの地位に恋々としないところなど、あまりに美しい生き方なので、本当かなとも思うのですが、山本七平賞を受賞した著者の力もあり、吉田首相が亡くなるころには、そんな疑念も消えてしまいます。
主人公の生きる指針として、「プリンシパル」という言葉が何度も出てきます。この言葉が胸に響くのは、今の時代にそれが欠けていることの裏返しでしょうね。「粗にして野だが卑ではない」で城山三郎が描いた石田禮助の「パブリックな精神」に相通ずるところがあると思いました。
また、趣味人としても、常人を超えています。大変な車好きで、トヨタのエンジニアに対して、当時開発中のニューソアラについてアドバイスをしていたそうです。P.386に、以下の記述があります。
1周忌のこと、次郎の墓前に3人の紳士が訪れた。それは当時のトヨタ社長・豊田章一郎、長男の章男、そして岡田稔弘。彼らは岡田が丹精込めて開発し、次郎の夢を乗せたニューソアラを三田の心月院に横付けした。
(中略)
次郎は生前よく岡田に、
「”No Substitute”(かけがえのない)車を目指せ」
という言葉で目指すべき車のあり様を示したという。
敗戦を予見して次郎が移り住んだ武相荘(ぶあいそう)に行ってみようかなと思います。
では。