【本】第三次世界大戦はもう始まっている

第三次世界大戦はもう始まっている

エマニュエル・トッド 文春新書 2022/6

 トッド教授のウクライナ戦争分析。あまりに論争を巻き起こすので、フランスでの公表よりも、日本を選んでいます。

エマニュエル・トッド「ロシアは国際社会にとって脅威ではない」…ウクライナ戦争で露呈したロシア軍の無力 | 文春オンライン
ロシアとウクライナとの戦争の長期化が懸念されるなか、それでも仏の歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏が「ロシアは国際社会にとって脅威ではない」と語る理由とは? トッド氏の新刊『第三次世界大戦はもう始…

主張はミアシャイマーに近いです。

「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアは明確な警告を発してきたのにもかかわらず、西側がこれを無視したことが、今回の戦争の要因だ。

タイトルの意味は、

いま人々は「世界は第三次世界大戦に向かっている」と話しているが、むしろ「すでに第三次世界大戦は始まった」。ウクライナ軍は米英によってつくられ、米国の軍事衛星に支えられた軍隊で、その意味で、ロシアと米国はすでに軍事的に衝突しているからだ。

 ウクライナ戦争については、長期戦を予測。ロシアの長期的な復活をしてきしています。経済的に行き詰まるのは、むしろ西欧であろうという予言はあたりつつあります。

 歴史人口学者として興味深かったのは、ウクライナの人口流出。戦争前から15%ほどが国外流出しており、「破綻国家」であったこと。

 ロシアについては、ルロワ=ボーリューを引用していました。

 父や長老の権威のもとにある家父長制の大家族、ミール(自治集会)の権威のもとにある村落共同体が、共同体生活、つまりは組合組織に適応しやすいように、あらかじめロシア人たちを育成してきた。仕事を引き受けるとすぐに、特に村を離れるとすぐに、ムジク(農民)は、アルテリ(自主的協同組合)をつくる

p.45

  ロシアは共同体家族であり、欧米の核家族的な価値観とは相容れません。

第4章では、人類学的な見地から問題を分析していました。2つの地図が興味深かったです。

ひとつは、「ロシアによるウクライナ侵攻に対する各国の反応」似た地図はこちら。

https://vividmaps.com/russia-ukraine-war/

 実は、ウクライナを支援しているのは欧米で、他の多くの国々は追従していないこと。

 もう一つは、Nathan Nunnの家族構造における父権性の強度の地図。

 父権性の強度を「父権性レベル1=男性長子相続の台頭」→「父権性レベル2=父方居住共同体家族」→「父権性レベル3=女性の地位の徹底的な低下」という三段階に分けました。家族構造で言えば、核家族は「父権性レベル0」、直系家族は「父権性レベル1」、共同体家族は、「父権性レベル2または3」に相当しています。

p.156

この図が、ロシア制裁に追従しない地域に重なって見えます。 興味深いのは、最も原始的な家族形態が核家族であり、人類の歴史とともに父権性が強くなった点。家族類型は万能ではないですが、安定的という指摘も重いです。この父権性が最も強い地域が最大面積であり、その下に資源が埋まっています。

 ドイツと日本は、「西洋」に共通する核家族社会より父権的な社会です。人類学者として私は、ドイツと日本、とくにドイツは、「西洋の国であるふりをしてきたのだ」と考えています。

p.161

 第二次世界大戦で負けたからこうしているというのも、笑い過ごすわけにはいきません。欧米の主張にどこまでついていけるのか。こうした国際情勢の理解が、日本企業にはますます必要になると思います。

 では。