テロと救済の原理主義 (新潮選書)
小川忠 新潮社 2007/6
国際交流基金日米センター事務局長によるイスラーム論。イスラエルのガザ侵攻で始まった09年。今年もイスラームの理解が必要になりそうですが、それをわかりやすく説明してくれる本は、多くありません。
本書は、イスラム原理主義(Islamic Fundamentalism)を他の宗教を比較することによって、わかりやすく解説しています。
シカゴ大の原理主義プロジェクトが提起する原理主義の特質(p.53)は、以下のとおり。
- 聖典の無謬性の主張
- 選択的な教義の構築
- 善悪二元論的な世界観
- 近代化による宗教危機に対する反応
- 終末観的世界認識と救世思想
第1章で、イスラム原理主義のカリスマ、サイイド・クドゥブ(Sayyid Qutb、1966年処刑)を取り上げ、第2章では、リベラル・イスラームと比較。同じイスラムでも、広い解釈の幅があることを示します。
第3章では、スリランカの仏教をとりあげ、一神教=テロというステレオタイプも排します。
第4章では、日本のプロテスタント的仏教、日蓮主義を取り上げます。北一輝、国柱会(こくちゅうかい)、田中智學(たなかちがく)の思想を取り上げることで、イスラム原理主義との類似点をあぶりだします。こうしたは、日本では戦前にテロを生み出し、前述のスリランカでは現在進行形で自爆テロの背景として語られています。
善く生きたいと思う青年が、なぜテロに行き着いてしまうのか。著者は、その背景にあるやり場のない孤独感とそれゆえにふれあいを求める強い気持ちを指摘しています(p.178あたり)。
第5章では、ロバート・ペープ・シカゴ大教授の”Dying to Win”を参照しながら、テロと宗教の関係を分析します。
自爆テロはイスラーム原理主義が原因ではなく、宗教的教義よりも世俗的動機が強いこと、自爆テロリスト個人の異常心理を分析するよりも、テロリストと社会の関係性を分析する必要があること、をペープ氏は強調する。p.184
テロ組織の政治目的はナショナリズムに源を発し、宗教感情とナショナリズムを結合させることで民衆の支持を得ており、テロリストには順境hさとして社会的な尊敬が払われている。こうした社会的支持があるがゆえに、テロ組織は新しい構成員を青年たちから獲得することができ、組織を維持している。p.190
テロ対策として、貧困、不平等の解消を勧める人たちには、「誇りの不平等」の存在を指摘しています。
では。
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