欲望の資本主義2021

BS1スペシャルを見ました。

 欲望の資本主義2021 「格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時」

欲望の資本主義2021 「格差拡大 社会の深部に亀裂が走る時」 - BSスペシャル
やめられない、止まらない、欲望が欲望を生む、欲望の資本主義。コロナが拡大させる格差。問題の本質は?出口は?BS1新春恒例の異色教養ドキュメント。 世界で進む格差の拡大、固定化。その潮流が今日本を飲みこむ?低所得世帯の割合が上昇、中間階級は消...

いろいろ勉強になりましたが、興味深かったのは、90年代以降、経済を牽引する企業は、有形固定資産ではなく、無形資産(Intangible assets) を持った企業だという点です。自動車製造業の会社は、工場(有形固定資産)を持ち、製品を造るためには従業員が必要です。売上を伸ばす=従業員にお金が渡ります。

ところが、GAFAMのような会社は、工場や従業員がなくても、売上を増やせます。必要なのはソフトウェアなどの無形資産です。ホントかなと思い、貸借対照表を調べてみました。

Source: Morningstar.com (The latest fiscal year ends)

トヨタで意外なのは、有形固定資産(Property, Plant, and Equipment, PPE) が、総資産の2割しかないこと。大きな工場がバランスシートの大きな割合を占めているわけではありません。現在のトヨタは、金融業もやっているため、金融事業の資産が大きな割合を占めています。

脚注を読んでいくと、無形資産は重要ではない(大きな金額ではない)と明言していますね。投資(Investment) の中に自動運転の技術を持ったベンチャー企業も入っているのかもしれませんが、部品メーカーなどのグループ会社が多いのではないでしょうか。

比較のために、卸売業の豊田通商も見てみました。有形固定資産が総資産の17%というのは予想通りです。無形資産は4%ですね。

内訳はのれん、鉱業権、ソフトウェアなどなので、これぐらいの水準ではないでしょうか。

マイクロソフトの有形固定資産は18%。内訳を見ると、ビルやコンピュータが主な内訳になっています。データセンターを運営していますので、そのサーバーや建物ではないでしょうか。

無形資産は17%もありますね。内訳は、のれんがほとんどです。見込みのあるベンチャー企業を買収し、のれんを計上しているとすれば、知識をお金で買っているということなのでしょう。

その他の無形資産も、77.5億ドル(7800億円)もあり、内訳は、技術関係、顧客関係、マーケット関係が、だいたい3分の1ずつになっています。これだけでも巨大ではあります。

その結果が、総資産の45%を占める現預金だとすれば、知識に対する投資が、十分なリターンを生んでいると言えそうです。

貧乏父さんは損益計算書だけを見て、金持ち父さんは、貸借対照表を管理するのでした。これからの企業が、社員に無形資産を身に着けさせなければならないのだとすれば、人事部長の役割が重要になりますね。将来のキャッシュフローを生む知識や経験を、社員教育で得るのか、企業買収やヘッドハントで得るのか。これまで財務諸表では、コスト(人件費)として扱われてきた「人財」が、会社の資産で問われる時代になったということでしょうか。

従業員当たりのデータでもみてみましょう。

Source:Morningstar.com

トヨタの一人あたり有形固定資産は278千ドル。しかし、無形資産はゼロ。従業員が稼ぐフリーキャッシュフロー(FCF)は12千ドル。入社すると、寮や工場は立派だけど、アプリはもらえないし、従業員あたりだとそれほど現金稼げてないので、賃金もそんなに上げられないというところでしょうか。

豊田通商に出向すると、有形固定資産は107千ドルに下がるものの、無形資産が22千ドルになります。でも一人あたりのFCFは13千ドルと、トヨタ本体と同じぐらい。

これがマイクロソフトに転職すると、一人あたりの有形固定資産は、トヨタ自動車とかわらないものの、無形資産は309千ドルにもなります。ほとんどがのれん代なのですが、買収した会社のアプリもすき放題使えるようになると考えると、従業員が利用できるソフト・サービスが、一人あたり3千万円にもなると言えないでしょうか。トヨタの従業員からみたら、ムダかもしれないですが、マイクロソフトの社員は、一人あたり3千万円ぐらい現金を稼いでくるので、1年で償却できる(汗) という。

これまでは、業種が違うので、比較することに意味があるのか、と片付けられてきたと思います。しかし、欲望の資本主義2021を見た後では、無形資産に投資した企業が、高い収益率を上げるようになっているのがわかります。財務諸表の見方が変わってきますね。

では。