KNBテレビ開局60周年記念の新春報道特別番組 が放送されました。
1月3日(木)午後5時~
地方局ならではの番組作りで、とても勉強になりました。
元ネタになっているのは、井手英策教授の『富山は日本のスウェーデン』です。保守王国の富山とリベラルなイメージのあるスウェーデンとの共通点を検討することで、左右の対立を止揚しようしようという本です。
まず、感心したのは、文字で入ってくる情報と、映像とでは雲泥の差があることです。両地域が「似ている」と思う人も、「違う」と思う人も、理解が深まったと思います。Televisionとは、Tele (遠く)+ vision(見る)ですが、8千kmも離れて両地域をワンパッケージで見せてくれた功績は大きいです。
次に印象に残るのが、地元取材力です。おそらく本を読んだだけで、富山のどこを取材すべきかすぐわかるのでしょう。60年間、地域の報道を担ってきた信頼により、富山の人々の率直なコメントを集められています。キー局の敏腕ディレクターがやってきたとしても、こういうコメントは集められないのではないでしょうか。
海外取材は慣れていないと思うのですが、スウェーデン側の素材も十分な説得力がありました。職場や家庭の様子、女性議員のインタビューなど、スタジオで議論するのに十分すぎる内容でした。撮影機材の発達もあると思うのですが、力のあるディレクターが撮影すれば、海外でも良い絵が撮れるのがよくわかりました。
私も、男女平等には気を配っていると自負していましたが、会社社長が、1日おきに仕事を持っている奥さんと交代で食事を用意している絵を見ると、自らを反省せざるを得ませんでした。
しかし、白眉は、スタジオ・トークの室井滋さんのコメントでした。スウェーデン国民負担率高いという話になった時、井手教授は、高負担+高福祉という自説を展開されました。それに対し、室井さんは、若い世代の「シェア」の話をして、議論を違う次元に運んでいました。
財政学者の立場からすれば、現状の巨大な政府債務を直視し、受け入れる心構えを持てと説くのは、道理でしょう。しかし、今年、消費税の引き上げを控える視聴者からしてみれば、ハイそうですかとは受け入れられない現実があります。
女優として、若い人と接点のある室井さんは、所有から使用へというシェアリング・エコノミーの話を投げ込むことで、しんどいけれど、工夫の余地がありそうな気にさせてくれました。負担の押し付け合いという二項対立から、現実的な落とし所を探す技術論に進める気がしました。日本の経済学者は、最先端のIT技術が、シェアを通じて、村人8名という富山県の限界集落を救うかもしれないという、見せ方を研究すべきなのかもしれません。
番組を見終わって、家族類型の視点からも、この番組は貴重だと思いました。富山県民の多くの方が、番組を見てもスウェーデンと距離を感じたことでしょう。しかし、スウェーデンも、富山県と同じく直系家族な国なのです。
番組でも、富山県の人口減少と3世帯同居率の低下を取り上げていました。都市化による核家族化は、世界のどこでも見られる現象です。しかし、絶対核家族なイギリスなどでは、産業革命が始まる前から核家族だったのです。番組で取り上げていた「自助、共助、公助」でいえば、自助が強い文化です。
スウェーデンは、今でも王様がいますし、かつては、家父長制的で、親との同居率も高い社会でした。 それが、半世紀近い制度改革の末に、このような男女協業社会を実現しました。( ヒットラーが作った男女共同社会 ) 日本が学ぶべきは、こうした直系家族な国ではないでしょうか。
この番組は、富山県での放送ではありましたが、日本全体が学ぶことができる内容を持っていると思いました。
では。