南洋理工大学 (Nanyang Technological University, NTU)のCentre of Excellence for Testing & Research of Autonomous Vehicles (自動運転研究所)を往訪してきました。
住所 1 Cleantech Loop Cleantech One
走行デモを含む3時間コースで、数多くの次世代技術を学ぶことができました。以下、私が気がついた点です。
1.シンガポールには、自動車メーカーがない。
先進国の試みは、自動車メーカー主導になりますが、シンガポールには、自動車製造会社はありません。 この研究所が置かれているのも、南洋理工大学エネルギー研究所(Energy Research Institute)で、シンガポールの社会基盤をどうしていくかという視点で研究していました。
2. 産官学の連携
明るい北朝鮮と呼ばれるシンガポール。ここでも、産業(NAVYA)、官(EDB、JTC)、学(NTU)などの連携が何の違和感もなくできていました。日本なら、トヨタか日産かでまず揉めるでしょう。
3. エコシステムの戦い
自動運転が、自動車の性能競争だけにとどまらないのはよくわかりました。コンピュータのハードとソフト、正確なGPS、道路情報、道路の整備、法律の整備、電力の供給、住民の理解など、自動車会社(Maker)の仕事というよりも、市長(Mayor)の仕事に近いです。
印象的だったのが、道路に自動運転車だけなら簡単なのだということ。当面は(機械より不安定な)人間の運転する車と共存しなければならないのが、ややこしいのだとか。たとえば、人間はGPSなしでも目視で運転しています。自動運転用のGPSが不安定になったとしても、アナログ情報で運転をし続けなければなりません。道路のセンターラインは、かすれては困りますし、街路樹が大きくなりすぎて標識が見えなくなっても困るのです。自動運転車は正確にスピード制限を知っていても、人間が目視できない場合に、人間が違うスピードで走ってしまいます。
自動車教習所のテストコースは、すべてが法律書通りにできているのですが、街全体をそのように整備するのは、容易ではありません。理論的には、すでにそうなっているべきなのですが。ホーチミンのように、バイクが歩道を走るは、逆走するは、渋滞している車の間を縫って走る場合には、センサーの感度をどう調整していいのかわかりません。
4.啓蒙というお仕事
「自動運転は安全」と住民に認識してもらうことも、容易ではありません。エレベーターや、エスカレータができたときも、人々が乗り方になれるまで、一定の時間がかかったのです。NTUが実験している自動運転バスも、固定区間から始めています。中国語で「横向電梯(水平にうごくエレベーター)」と呼んでいるのは、象徴的です。
5. 人工知能の戦い
こうした技術を積み上げていくと、MaaS(Mobility-as-a-Service)を築けるかという問いにたどり着きます。シンガポールは、すでに居住面積よりも、道路(駐車)面積が大きくなってしまっています(高層住宅ばかりなので)。国も、車の台数のゼロ成長を宣言しています。自動車の少ない社会を目指すためには、公共交通機関を継ぎ目なくつなぎ、快適な移動体験を提供するよりありません。それは、乗り継ぎ地点に、次の乗り物がすぐ来るということで、需要予測とそれに応じた乗り物の配置を実現しなければなりません。電車だけでなく、バス、タクシー、共有自転車、電気スクーターなどなど。ひとつのアプリで、民間会社の枠を超えて協業し、かつ、正確な需要予測をするのは、高度なコンピューティングなくしてできません。
日本人なら、FeliCaの利用が広がるのに30年かかったのを思い出すでしょう。JRから始まった試みが、私鉄、地下鉄、バス、コンビニでの買い物に広がるには、かなりの時間が必要なのです。
6. Windows 再起動?
NAVYA製の自動運転バスにも乗せてもらいました。ハンドルがありません。手動運転時は、コントローラーで運転します。プレステかとツッコミたくなりますが、全く問題なく動きます。自動運転のテストセンターでデモをしてくれるのですが、希望者に有料で貸し出しているとのこと。日本の自動車教習所は、自動運転をするベンチャー企業に敷地をレンタルできますね。
タッチパネルとキーボードを使って自動運転を指示するわけですが、うまく動かないと、リブートするんですね。まるで、Windows PC。2000年ごろのVAIOのような感じです。
私がモンゴルのウランバートルからハラホリンに向かった時にも車が故障したのですが、そのときには、蹴飛ばすことで直していました。ガソリン車は、まだ、ちょっと馬に近い。電気自動車は見た目は似てますが、繊細で、パソコンに近いですね。
自動運転のニュースは毎日のように見聞きしていますが、やはり、実物を観て、専門家の解説を聞くと、未来がハッキリ見えてきます。自動運転に関連する技術が、国家の隆盛のカギを握ることはよく理解できました。CASE (Connected, Autonomous, Shared, Electric)は、都市の総力戦ですね。
では。